小売こぼれ話(8)コストコは異端児か?(後)
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何が違うのか?
海外の大手小売が我が国で失敗を重ねるなかで、コストコは唯一の成功企業となった。その理由は、少ないアイテム数と他店では手に入らない商品にある。
他店と同じ商品を売れば、そこに競合が発生する。それは価格であり、鮮度であり、家からの距離である。そのなかで最も競争が厳しくなるのは価格である。価格競争は最終的には消耗戦になる。いわゆるレッドオーシャン(利益なき繁忙)だ。売上は大きくなるものの、それに見合った利益が出ない。オーバーストア下の流通業界では、大抵の企業がそんな環境から逃げられないでいる。
ところが、コストコは違う道を行く。まず、日本人の度肝を抜くだだっ広さだ。天井も高い。販売アイテム数は3,000~4,000。まさにアメリカンテイストだ。
商品はすべてサイズが大きい。入数も多い。「あんな大量単位の商品を日本人は買わない」。コストコが福岡県・久山に進出した当時に聞かれた小売関係者の大方の評価だった。だが、現実は違った。そのままではオーブンにも冷蔵庫にも入らない大きなピザは友人、家族で分け合う。トイレットペーパーや油脂、調味料も同じだ。
まだある。コストコの商品は原則、他店では買えない。たとえばコストコで売っているチーズやナッツ、ハム、ソーセージはほかのスーパーマーケットにはない。販売アイテムのほぼすべてがコストコにしかないから、コストコに行かなければ買えない。いわゆる「わざわざの店」だ。メーカーも同じような商品でもコストコ仕様で出荷できるから、問屋、小売からのクレームが出にくい。しかも、全国の店舗が対象だから、それなりの売上に結び付く。
久山のコストコの駐車場には地元福岡だけでなく、久留米、熊本、時には宮崎ナンバーの車も止まっている。商圏でいえば、優に100kmを超える。片道2時間以上かけてでもやって来るわけだ。これはもう小売店ではなく、観光施設だ。どんな人でも観光に行くと財布のひもが緩む。大型カートで目当ての品に加えて、衝動買いによっていろいろと買い込む。レジ外のフードコートでアメリカンサイズのコーラやピザ、「プルコギベイク」を楽しむ。
システムもアメリカ的だ。子ども連れならフードコートでブランチを済ませた後、ゆっくり買い物ができる。久山のコストコの成功が確定したのは、民主党政権下の高速道路無料化からだ。その後、料金が元の有料化に戻っても、いったんコストコを味わったお客にとって再有料化は問題ではなかった。
経費の増加を売上増で補う
コストコの価格だが、すべてが圧倒的に安いわけではない。安いものもあるが、なかにはそうでないものもある。しかし、トータルの値入率と経費率は極めて低い。そして、それは四半世紀以上もほとんど変わらない。
一方、1店舗あたりの売上も極めて順調に伸びている。デフレ下の日本でも同じだ。売上が伸びて経費率が変わらないということは、販売管理費の絶対額は増えていることになる。経費の伸びを売上の伸びで補う。商圏という縛りがある小売業では極めてまれな構図だ。
さらに驚くべきは、1店舗あたりの売上の伸びをほぼ毎年確保していることだ。ちなみに11年から20年までの10年間の伸び率は137%である。
一方、粗利益の伸びは221%。経費の伸びは208%だ。これこそコストコの強さにほかならない。この推移はウォルマートでさえも真似できない。
表は、過去10年間のコストコの業績推移(2年ごと)である。コストコならではの特徴が見て取れる。それは毎年、円換算で平均1兆円前後の売上を伸ばし続けていることに加え、ほとんどの項目が一定値を維持していることである。その大きな理由は、1店舗あたりの売上が10年間で1.5倍近くも増えていることだ。これは常識的に見て、極めて異例な現象といえる。
とくにこの5年間は、販売管理費の伸びを粗利益率の伸びでカバーし、そのうえで営業利益率3%台を確保している。おそらく、顧客志向に基づいた限りない商品調達の努力によるものだろう。
コストコのもう1つの特徴は、海外店舗と国内店舗の売上に差がないことだ。ウォルマートの売上が海外と国内とで大きなばらつきがあることを考えると、コストコ型ホールセールの安定性が際立つ。「Make a difference」――いわゆる異端児である。
(了)
【神戸 彲】
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