ストラテジーブレティン(290号)恒大集団経営危機、投資=債務拡大による成長ストーリーの終焉を告げる桐一葉~当面の金融危機は回避されるが、顕著な減速が不可避に(前)
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NetIB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。
今回は2021年9月27日付の記事を紹介。(1) 恒大経営危機の顛末と帰趨
恒大集団経営危機、事実上の破綻へ
中国の不動産最大手企業、恒大集団が経営危機に陥っている。6月末の時点で有利子負債は5,700億人民元、日本円で約9兆7,000億円(890億ドルの借り入れと債券発行による債務)である。これにサプライヤーに負っている買掛金、住宅購入者の頭金・前払い金などを加えれば負債総額は1兆9,600億人民元、日本円で33兆円規模に上るとみられる。
ここ数年来の中国政府による不動産規制強化が引き金になり、不動産事業の採算悪化、資金繰り困難化、建設中の物件の工事停止、取引先への支払い停滞、購入したマンションの完成の見通しが立たず入居できない、などの混乱が起きている。恒大集団が破綻した場合、まず従業員や取引先の企業に大きな影響が出る。また、恒大グループが資金調達を急ぎ保有する物件を投げ売りすれば、不動産価格の下落を通じてほかの業者にも打撃がおよぶ。また金融機関、投資家の損失発生が連鎖的金融困難を引き起こす可能性もある。
恒大集団の株価は昨年ピーク時(2020年10月8日)20.2HKドル(約287円)であったが今年9月20日には2.11HKドル(約30円)へと10分の1まで急落、政府支援の期待が高まり9月23日には2.8HKドル(約39円)に上昇したものの、9月24日には2.36HKドル(約33円)へと再下落した。社債も額面の3割以下まで下落しており、破綻を織り込んでいる。利払い停止と債務不履行が懸念される。恒大集団は人民元建ての利払いは表明したが、ドル建ての利払いは遅延している模様である。当局がデフォルト回避を指示したと報じられているが、予断は許されない。
危機の主因は政策の変化、不動産融資規制が直撃
こうした困難の主因は、恒大集団の超積極・債務依存という経営の問題もあるが、数年来のバブル対応の金融規制強化にある。20年、習政権は不動産業融資の総量規制(銀行融資の40%以下)、2件目以上の住宅ローンの厳格化、マンション価格の統制、などを打ち出した。とくに不動産融資規制は、融資適格条件が、(1)資産負債比率70%超、(2)純負債資本倍率100%超、(3)短期負債を上回る現金を保有していること、と具体的であり即効性があった。開発融資は、今年6月は前年比2.8%増と過去最低まで低下し、住宅販売は8月には前年比19.7%減少している。
限度を超えた住宅価格高騰
確かに中国の不動産バブルは許容限度を超えている。北京、上海、広州など主要都市の住宅価格は5年前に比べて50~60%上昇し、各都市の平均年収に対してはほぼ50倍に達した。10倍前後の東京、ニューヨーク、ロンドンのほぼ5倍であり、若者が生涯かけても家をもてないことが当たり前になった。この国民的不満を当局は容認できなくなったのである。
また習近平政権は鄧小平路線、つまり市場原理を働かせ格差を容認する「先富論」を捨て、富裕層に対して低所得層への寄付を求める「共同富裕」路線へと舵を切った。不動産規制はそうした政策転換の重要な柱だったのである。
金融危機には至らず、バブルも当面崩壊しないだろう
市場ではリーマン・ショックの再来を懸念する向きもある。「中国の不動産融資は6月末時点で50兆7,800億元と10年前比5倍に膨らみ、中国の名目GDPの約半分に相当する規模となっている。また、2020年の地方政府の歳入に占める土地売却の割合は31%だった。中国銀行の中国本土における融資では、不動産、建設、住宅ローンが41%を占める。また不動産貸付における不良債権比率は前年の0.4%から今年6月時点で4.9%まで上昇している。住宅ブームを背景に家計の借り入れは大幅に増加し、GDPに対する家計債務は5年前の44%から62%まで上昇している」(ウォールストリート・ジャーナル21年9月7日) 。
しかし中国政府には恒大集団の全面的な崩壊を回避できる能力があるとみられる。中国は金融システムが閉鎖されており、主要銀行は国有銀行であるほか、法の支配が緩い。政府が企業再編の指揮をとりシステミックな崩壊を回避することが可能で、公的資金注入に5、6年もかかった日本とはまったく事情が異なる。早期に解決策が浮上し、中国当局が金融政策のさらなる緩和に動けば、深刻な不動産不況を当面は回避できるだろう。沿岸地域の主要都市住宅価格は8月も値上がりが続いている。また全国の住宅在庫は前回15年の住宅市場低迷時よりもはるかに低い水準にある。そのため、対応策が打ち出されれば、下値は支えられるだろう。21年秋口から22年初頭にかけて、中国経済の成長に著しいブレーキがかかるのは不可避だが、中国当局が断固とした行動に踏み切り、これ以上の事態悪化は阻止されるのではないか。日本を含め世界株価は堅調さを維持しており、中国発世界金融危機には至らない、との見方が優勢である。
ただし、過去20年間続いた中国の長く極端な過剰債務と過大投資に支えられた成長ストーリーは、恒大集団の危機で曲がり角を迎えたことは間違いないだろう。
(つづく)
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