2024年12月23日( 月 )

歩車分離式信号機の導入促進と克服すべき課題(前)

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運輸評論家 堀内 重人 氏

求められる歩車分離式信号機の比率向上

信号機 イメージ 歩車分離式信号機とは、交差点で青信号を表示する時間を変えることで、車両の通過と歩行者の横断が交わらなくするような方法によって制御される交通信号機である。代表的なのがスクランブル式であり、全車両を停止させている間に歩行者を横断させ、さらに歩行者の斜め横断が可能となっている。

 歩車分離式信号が導入されるようになった背景として、歩行者が交差点の信号機が青色だから横断歩道を渡ろうとしたり、渡っていたりするときに、右左折する車両との接触事故が多数発生したことがある。歩行者からすれば交通ルールを守っているにもかかわらず、命を落としたり、重傷を負ったりしている。

 警察庁は2002年9月に「歩車分離式信号に関する指針」を出して、各都道府県の警察に対し、歩車分離式信号を積極的に導入するよう要請した。全国の警察も03年度以降、事故多発地点や通学路に重点的に設置してきた。20年3月末時点で国内に20万1,847の信号交差点があるが、歩車分離式の割合は4.6%にとどまっており、警察庁は各都道府県の警察に対し、比率を上げるように求めている。

導入のメリットとデメリット

 歩車分離式信号を導入すれば、以下のような効果が期待できる。

(1)道路交通法を順守して正しく横断歩道を渡る歩行者が自動車に阻害されず、事故を大きく減らすことが可能になる。
(2)右左折する車両が円滑に通行できる。とくに左折時の巻き込み事故の防止に効果が期待できる。
(3)自動車などの運転手にとっては歩行者を気にせずに右左折できるため、交差点周辺の渋滞が解消される場合もある。

 以上のような効果が期待できる半面、以下のようなデメリットもあるため、歩車分離式信号の導入は遅々として進展しない。

(1)歩行者用信号だけが青信号となる時間があるため、車両の待ち時間が増加し、渋滞が発生することもある。
(2)歩行者にとっては青信号になるまでの時間が長いため、信号無視の発生が危惧される。
(3)視覚障がい者に認識してもらえるかという疑問がある。
(4)自転車との接触事故の増加を懸念している。

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 (1)の「渋滞の激化」については、警察庁が2000年初頭に合同社会実験を行っている。その結果、渋滞が緩和されと報告している。(2)については、歩車分離式信号を採用した交差点では、いずれも重大事故の減少に成功している。

 横の車両信号が赤になると、前方の車両信号が青になったという思い込みにより、「見切り発進」する運転手は多い。このため、歩行者用の信号のみが青になったときに車両の運転手が勘違いして発進してしまい、その結果として信号無視する可能性が指摘される。だが、この点に関しては、運転手が歩車分離式信号に慣れるまでの取り締まり強化で対策が可能。また、「歩車分離式」と書かれた表示板が、灯器の横や上部・下部に設置されている交差点もある。

 (3)については、視覚障がい者は交差点内を走行する自動車の音で信号の色を判断する。そうなると音響装置が設置されていない歩車分離式信号機では、視覚障がい者の横で止まっていた車が発進した場合でも青信号とは限らず、赤信号でもわたってしまう可能性がある。歩行者用の音響装置に対しては「やかましい」という意見も多いが、交通量の多い交差点では導入すべきである。

 (4)については、自転車の運転手は歩行者用の信号機に従って行動する。歩行者用の信号機が青になると、交差点を右左折する自転車に歩行者がはねられる危険性がある。そこで歩車分離式信号機が導入された一部の交差点では、車道からは歩行者用の青信号が見えなくするため、歩行者の青信号にブラインドが装着されている。

 歩車分離式信号機は、横断歩道における歩行者の安全性の向上に大きく貢献する。20年度の人口10万人あたりの交通事故発生件数は、静岡県が最も多く567.2件、第2位の宮崎県が477.7件、第3位の群馬県が234.4件となっている。これらの県は公共交通が脆弱で、完全なクルマ社会となっている。このような県では交通事故による死傷者も多く発生することから、歩車分離式信号機の導入を推進させる必要があるが、課題も多い。とくに、交通渋滞の激化が懸念材料といえる。

 この点について筆者は、公共交通を充実させて、自家用車から公共交通へとモーダルシフトさせることで交通渋滞が緩和されると考える。

(つづく)

(後)

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