任天堂創業家のファミリーオフィス~相続した莫大な資産を元手に企業買収に乗り出す(中)
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「ファミリーオフィス」――日本人には馴染みのない経済用語だ。欧米では古くから、超富裕層たちが一族の財産を守り、永続的に引き継いでいく手段として活用してきた。日本でも、莫大な資産を運用するファミリーオフィスが誕生した。ゲーム機器を製造・販売する任天堂(株)の創業家、山内家の親族たちである。
家庭用ゲーム機「ファミコン」の大ヒットで世界的企業に
任天堂は1889年、工芸職人だった山内房次郎氏が京都の平安神宮近くに「任天堂骨牌」を創業、花札を製造したのが始まり。プロの博打うちは勝負のたびに新しい札を使ったため、任天堂の花札はよく売れた。
中興の祖は房次郎氏のひ孫の溥氏。1949年、22歳の若さで家業を継いだ。オイルショックで倒産の危機に直面した溥氏は、脱花札・トランプを目指し、テレビゲームに参入した。
83年に発売した家庭用ゲーム機「ファミリーコンピュータ(ファミコン)」が、子どもたちの間で爆発的な人気を呼んだ。ゲーム機は最後発だったが、「面白いソフトをつくる」エンターテインメントの会社に特化し、世界のニンテンドーへと駆け上がっていく。
ゲームソフト「スーパーマリオブラザーズ」は、世界一売れたゲームソフトとしてギネスブックに登録されている。溥氏は大リーグのシアトルマリナーズのオーナーになり、イチロー選手の獲得を直接指示したとして話題になった。
溥氏の任天堂株は4人の遺族が相続
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新聞業界に激震、輪転機最大手・東京機械製作所が乗っ取られる?!~買収防衛策でアジア開発キャピタルに対抗(前)溥氏は2013年9月19日、85歳で死去した。溥氏の保有株式は4人の遺族に相続された。任天堂が12月25日、近畿財務局に提出した変更報告書で判明した。
溥氏は1,416万5,000株、発行済み株式の10.00%を保有する筆頭株主だったが、それを市場外取引で溥氏の家族4人が相続した。
相続は、長男・克仁氏と次男・万丈氏がそれぞれ429万1,200株(所有割合は3.03%)、長女・荒川陽子氏と次女・田中富二子氏がそれぞれ279万1,300株(同1.97%)。長男の克仁氏は任天堂の企画部部長。長女の荒川氏の夫は、元米国任天堂社長・荒川實氏だ。
任天堂を世界的なゲームメーカーに育てた溥氏は莫大な資産を残した。上場株式の評価は、死亡した日から遡って2~3カ月間の平均株価を基に行われるが、亡くなった日の株価(1万1,090円)で計算すると、遺産は株式だけで約1,570億円。07年11月には、任天堂株は7万3,200円もの値がついた。その時点での資産は1兆円を超えていた。遺産はとてつもなく莫大。従って相続税も巨額に上る。
任天堂は14年2月4日、市場外取引で950万株(同7.82%)の自社株式を取得した。4人の親族が相続税の支払いのため、相続した任天堂株の67%を売却。その結果、任天堂が保有する自社株式は2,329万株、発行済み株式総数に占める割合は16.4%となった。
それでも、4人の親族には任天堂株の466万5,000株が残った。株価は急騰し、21年2月には10年来の高値となる6万9,830円をつけた。相続した時点の株価(1万1,090円)の6.3倍だ。そのうち1,000億程度が山内ファミリーオフィスの原資となった。
富士興産の買収資金をアクティビストファンドに提供
情報誌「選択」は21年6月号に、「社会貢献より企業買収がお好き?任天堂を世界企業に育てた山内家の意外な近況」と題する記事を掲載した。
〈山内家ファミリーオフィスが出資しているシンガポール籍のアクティビストファンド「アスリードキャピタル」が4月28日、「ENEOSグループ」の石油製品の販売を手がける東証一部上場の「富士興産」に、突如として株式公開買い付け(TOB)を開始した。アスリードは富士興産経営陣から賛同を得ずに、支配権獲得を目的としてTOBを行っており、敵対的TOBに発展する公算が極めて大きい。
山内家ファミリーオフィスは「今回のTOBの資金を追加でアスリードに出資しているようだ」(関係者)という〉
と報じた。
(つづく)
【森村 和男】
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