任天堂創業家のファミリーオフィス~相続した莫大な資産を元手に企業買収に乗り出す(後)
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「ファミリーオフィス」――日本人には馴染みのない経済用語だ。欧米では古くから、超富裕層たちが一族の財産を守り、永続的に引き継いでいく手段として活用してきた。日本でも、莫大な資産を運用するファミリーオフィスが誕生した。ゲーム機器を製造・販売する任天堂(株)の創業家、山内家の親族たちである。
富士興産の乗っ取り騒動の顛末
富士興産(株)の乗っ取り騒動を振り返ってみよう。
アスリードキャピタル(以下、アスリード)は4月27日、燃料油やアスファルトを販売する富士興産にTOBを始めると発表した。期間は4月28日から6月14日までで、TOB価格は1株あたり1,250円。
アスリードは16.8%の株式を保有しており、TOBの理由を「経営陣から企業価値向上の方針について納得できる方策が提示されず、中長期な企業価値向上のために非公開化が必要」としている。買い付け比率の下限は40%に設定。その後、TOB期間を7月9日に延長した。富士興産は6月11日、アスリードのTOBに対抗し、買収防衛策として新株予約権の無償割り当てを実施すると発表。1株につき新株予約権1個を9月1日に割り当てる。
新株予約権が行使されれば、アスリードの持ち分は減少してしまい、買収は叶わないことになる。アスリードは、買収防衛策の導入と、新株予約権の無償割り当ての差し止め請求を東京地方裁判所に提起したが、東京地裁は差し止め請求を認めなかった。▼おすすめ記事
セガサミーホールディングスとカジノ
情熱を傾けていたカジノ参入がトーンダウン(前)6月24日に開かれた富士興産の定時株主総会で、新株予約権の無償割当ての買収防衛策は賛成66.18%で可決された。
これを受けて、アスリードは富士興産へのTOBを撤回。アスリードの富士興産の乗っ取りは失敗に終わった。村上世彰氏に憧れる「山内家の“ジュニア”」
なぜ、山内ファミリーオフィスは、アスリードのような過激な乗っ取り屋に資金提供したのか。
『日刊ゲンダイDIGITAL』(21年7月6日付)は、関係者の話をこう伝えた。〈万丈氏は、”村上ファンド”の村上世彰氏(61)のようなファンドマネージャーに憧れていた。村上氏は現在、外部の投資家から資金を集めるのではなく、ファミリーオフィスという形態を取っています。万丈氏も、これを真似たのでないでしょうか〉
この指摘は納得できる。通常の投資ファンドは外部の投資家から資金の委託をうけているため、決められた期間に一定の利回りを出さなければならない。巨額資金に見合う説明責任があるので、投資先や投資手法にも倫理性が求められる。
その点、ファミリーオフィスは大資産家である一族の資産だけで運用するので、一般の投資ファンドがコンプライアンス上の観点などで尻込みする投資手法や投資案件に手を出すことができる。山内家ファミリーオフィスは「私たちの目的は、無機質な金銭を獲得することでなく、得た利潤を未来に意味あるかたちで社会に還元していくことにあります」と、崇高なビジョンを掲げている。
崇高なビジョンと、乗っ取り屋の資金スポンサーになることと、どうつながるのだろうか。日本を代表する大富豪である任天堂の創業家一族のファミリーオフィスとして注目されたが、短期間にジャパンシステムのMBO資金、富士興産の買収資金のパトロンとして、2度失敗した。万丈氏は、村上氏のような投資や買収の経験はない。豊富な資産はあるが、投資家としては「ド素人」である。当分、高い授業料を払い続けることになりそうだ。
(了)
【森村 和男】
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