【ラスト50kmの攻防(27)】未整備の新鳥栖-武雄温泉間に低速FGТは可能か(前)
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来秋の西九州新幹線武雄温泉~長崎間の開業まで1年を切った。ここにきて佐賀県は、国に未整備区間の新鳥栖~武雄温泉間に時速200kmの低速FGТ(軌間可変電車)の投入を提案した。高速FGТの開発を断念した国が受け入れる可能性は、はたしてあるのか。
広軌と標準軌を直行するスペインの軌間可変電車
FGТ=フリー・ゲージ・トレインは和製英語。世界的にはGCТ=ゲージ・チェインジャブル・トレインが一般的。鉄道が発達した欧州で開発された技術で最近は「一帯一路経済圏」構想を進める中国も積極的に開発している。
とくにスペインの鉄道車両メーカー、タルゴ社は欧州ではGCТの代名詞だという。同国は山岳地帯が多く、大半の鉄道軌間は広軌の1,668mm。世界・欧州の標準軌間1,435mmより広く、国外と結ぶ国際列車は国境で台車交換が必要だった。軌間可変車両「タルゴⅢRD」は台車交換を解消し、1968年11月にマドリード~パリ間の試運転に成功。その後、標準軌新線と広軌在来線を直行する世界初の高速軌間可変電車につながった。
「軌間可変電車の開発は現実的ではない」
一方、新鳥栖-武雄温泉間の整備方式をめぐる国交省と佐賀県の5回目の「幅広い協議」が11月22日、佐賀県庁新館4階で7カ月ぶりに開かれた。国交省は川島雄一郎幹線鉄道課長ら2人、佐賀県は山下宗人地域交流部長ら3人が出席、川島氏は同区間をフル規格で整備した場合の3ルート(佐賀駅経由、北回り、佐賀空港経由)の比較、検証の結果を説明した。
3ルートは別地図、比較・検証の主な内容は別表の通りだが、佐賀県が内心推していたとみられる佐賀空港経由ルートの評価は最低だった。
そのこともさることながら、山下氏は4回目の前回協議で低速FGТを投入した場合の検証を訴えていた。ところが、川島氏は「FGТ開発に予算や費用を費やすのは現実的ではない」と一蹴。協議の俎上(そじょう)にすら載せない姿勢をみせ、山下氏が強く反発した。
国交省が配布した資料は全20ページ。うち低速FGТはわずか2ページ。残りは3ルート比較を除くと、営業中の九州新幹線や北陸新幹線の沿線自治体の鉄道旅客数や観光入り込み客数の増加、既存駅周辺の開発といった「よく言われていること。今時点でも普通に言われていること」(山下氏)の記述に枚数が割かれていた。
これでは、新鳥栖-武雄温泉間は「在来線の利用を大前提に関係者で協議をして、合意を重ねてきた」と認識する山下氏ではなくても、反発したくなるのはわかる。しかし一方で「佐賀県は新鳥栖-武雄温泉間のフル規格化を求めていない。何十年と変わらない県の考え」とする山下氏の主張もどうだろうか。
JR九州の前身、国鉄が1986年9月に公表したフル規格着工を前提にした環境影響評価報告書に対し、佐賀県の香月熊雄知事(故人)は「財源の地域負担や並行在来線存続など解決されなければならない問題がある」とする意見書を提出したものの、フル規格そのものまでは拒んでいない。
高速FGТ開発に強気だった国交省
そんな双方の折衷案として時速270kmで走行する高速FGТの開発計画が浮上。国は1994年から開発断念を表明した2018年7月まで25年近くの歳月と500億円以上の予算を投じた。川島氏の言い分には十分理がある。
この日の協議予定時間の最終盤に差し掛かり、納得できない山下氏は低速FGТを次回テーマにしたいと繰り返した。「FGТだと所要時間が長くなってしまう。不便になるような車両開発は正直厳しい」。川島氏も譲らなかった。
突然、同席していた佐賀県の高塚明地域交流部副部長がたまりかねた様に口を開いた。「すみません。やり取りを聞いていて本当に残念です」。高塚氏は、国交省の開発責任者の1人が、かつて高速FGТの開発見通しを強気に話していたのを記憶に残していた。
(つづく)
【南里 秀之】
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