日大の「闇の奥」〜大学を蝕む3つの病(3)
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ライター 黒川 晶
ブラックボックス化する「大学出資会社」
日大事件が提起する第2の問題は、学校法人が出資して事業会社を設立し、収益確保の手段とする「大学出資会社」事業の在り方である。食堂や売店、書店、損害保険や旅行代理店といった学内関係者向けの各種サービス事業を一括委託し、そこで上がる収益を大学本体に寄付・還元させる。大学の施設・設備の管理修繕や運営、一般事務などを業務依託する、セクションごとに行われていた外部調達業務をそこに集約させるなどして、大学の運営コスト削減も期待できる。
私立学校法も認める(第26条「学校法人は、その設置する私立学校の教育に支障のない限り、その収益を私立学校の経営に充てるため、収益を目的とする事業を行うことができる」)ところの非営利組織たる学校法人の営利事業である。
従来は大学自身がこれを手がけてきたが、2000年代、「設置する学校の教育研究活動と密接な関係を有する事業(たとえば、会計・教務などの学校事務、食堂・売店の経営、清掃・警備業務など)を一層効率的に行うために、学校法人が出資によって会社を設立する場合には、学校法人の出資割合は出資先会社の総出資額の2分の1以上であっても差し支えない」とする文科省通知(「学校法人の出資による会社の設立等について」、01年6月8日)にも後押しされ、この方式が急増したのである。
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最大の武器は「人材育成力」 就職率の高さとともに経営面も高評価立命館や早稲田、慶応、明治のそれのように、いまや年間数十億円に上る売上高をマークする大学出資会社もある。日大の100%出資会社(株)日本大学事業部もその1つ。
「田中政権」3年目の10年に設立されて以来、毎年増収増益を重ね、17年12月期には69億円もの売上高を計上している。出資元である日大本体への寄付も4億円に上ったといい、大学の財政基盤をバックアップするという本来の存在意義は全うしているかに見える。だが、今回の背任事件は、ここが水面下で理事長らの私的集金装置と化していたことを明らかにしてしまった。
報道によれば、同社取締役も兼任していた井ノ口忠男理事は昨年、福島県郡山市にある日大工学部の災害復興工事を受注した建設業者に対し、日大と取引「させてやる」見返りとして現金3,000万円の供出を強要していた。同氏は同社設立の直後から「理事長付相談役兼事業企画部部長」の肩書きで外部業者との契約業務を取り仕切ってきたが、この過程において、同様の手口で事業部の取引先から巨額のリベート収入を得ていたとみられるとのこと。
しかもその一部は、背任事件の捜査過程で見つかった田中英寿理事長宅の「隠し金」を構成している可能性があるという。これが事実ならば、井ノ口氏は日大という「シマ」で商売するための「みかじめ料」を業者から徴収しては、せっせと田中氏に「上納金」を献上してきたと、裏社会の比喩で語られても致し方あるまい。業者に要求するリベートは、井ノ口氏の実姉が経営する広告会社が扱う広告への「1口300万円」の協賛金というかたちをとったこともあるという、驚愕の報道もある。
森卓也氏は「大学経営における出資会社の役割に関する研究」(『大学経営政策研究』第9号、19年3月)のなかで、大学出資会社という利益還元の仕組みについて次のように警鐘を鳴らしている。
「大学法人自らが行う収益事業と比較して、学校法人とは別組織(大学出資会社)が行う出資会社事業は、大学出資会社の存在自体の把握が難しいこと、上場会社を除き大学出資会社には情報公開義務がないことから、その実態は明らかになっていない」。出資会社からの学校法人の「受入額が0円、すなわち出資元である大学法人に寄付金、配当を含め何も支払っていない」大学出資会社もかなりの割合で存在し、「営利的活動で創出された利益の還元だけを目的に設立されている訳ではないことが類推される」。「大学出資会社は『大学』の社会的な信用を活かして事業を展開しており(…略…)大学のガバナンスとまったく切り離されている状況は、大学本体の教育・研究に負の影響を与えるリスクがある」。
少子化にともなう入学者数減少で大学の経営環境が厳しさを増すなか、収益確保が目的化し、教学の場たる大学を支えるという本分を見失った大学出資会社の存在は、そこに携わる人間の資質という問題を突きつけている。
(つづく)
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