人体の加齢と健康長寿、20歳から100歳までの身体機能マップ(3)年代別に見る身体機能の変化

 人は何歳から老い始めるのか。筋肉や骨は若年期にピークを迎える一方、語彙力や状況判断力は60代まで伸びるなど、身体機能の加齢曲線は一様ではない。本稿では、公的統計や学会ガイドライン、査読論文を基に、20歳から100歳までの変化を臓器別・年代別に整理。健康寿命を延ばすための実践策や、90歳以降に機能を維持するための要点を紹介する。
 ところで、医学情報の最大の落とし穴は、確立された事実と、有望だが未確定の仮説が同じ調子で語られることである。本レポートでは、すべての記述を以下の三段階で区別し、本文中に記号で示す。

表0

20代から100歳まで、10年ごとの座標

 本章は、読者が自分の年齢を起点に現在地を確認できるよう、10年ごとの区切りで整理する。各年代について「何が起きているか」「何を測るべきか」「何をすべきか」の三点を示す。

年齢はあくまで目安である
 以下に示す年代区分は、集団の平均的な傾向を便宜的に区切ったものである。実際には、運動習慣のある60代が運動不足の40代より高い身体機能を示すことは珍しくない。暦年齢よりも、機能の実測値のほうが重要な情報である。本章で挙げた「測るべき指標」を実際に測定することを強く推奨する。

3-1 年代別サマリー表

表1

3-2 20代〜40代―「まだ何も起きていない」時期の重要性

 この年代の特徴は、自覚症状がほとんどないことである。そしてそれこそが、この時期の医学的な難しさでもある。

20代―骨の最終蓄積期

 骨量は10代から増え続け、20歳ごろに最大値(最大骨量/ピークボーンマス)に達する。その後は40歳半ばまでほぼ横ばいで推移し、50歳近くから減少に転じる。【確】

 つまり、生涯の骨の「貯金」の総額は20歳前後で確定する。この時期の過度なダイエット、運動不足、喫煙は、70代以降の骨折リスクを直接的に引き上げる。20代で骨粗鬆症を心配する人はほとんどいないが、医学的にはこの年代の行動が最も影響が大きい。

30代―筋肉の減少が始まる

 筋肉量は20代後半から30歳前後にピークを迎え、30歳以降は年間約1%の割合で減少していくとされる。【幅】外見上の変化はまだ乏しいが、体組成計で測ると筋肉量の低下が確認できる場合がある。

 ただし、この「年1%」は不活動な集団を含む平均値である。継続的な筋力トレーニングを行っている人では、30代・40代を通じて筋肉量をほぼ維持、あるいは増加させることも可能である。

40代―内臓機能の低下が数値に出始める

 腎機能の指標であるeGFR(推算糸球体濾過量)は、20〜30代をピークとして緩やかに低下していく。日本人の健診受診者76万人を対象とした横断的解析では、年間のeGFR低下率は男女計で約0.51 mL/分/1.73m²と推計されている。【確】

 別の知見として、40〜50歳までは残存する糸球体が機能的に低下を代償し、それ以降に腎機能低下が明らかになると考えられている。【推】この「代償が効いている間は数値に出ない」という構造は、内臓全般に共通する重要な特徴である。

40代で押さえるべき最重要ポイント
 2024年のLancet委員会報告は、認知症の修正可能なリスク因子として中年期の高LDLコレステロールを新たに追加した。40代・50代のコレステロール管理は、心血管疾患の予防だけでなく将来の認知症リスクにも関わる。この年代の健診結果は、「今」ではなく「20年後」への投資として読むべきである。

3-3 50代〜60代―差が開く分岐点

50代―女性の骨量急減と、男女差の顕在化

 骨量は50歳近くから減少に転じるが、特に女性は閉経を機に急激に減少する。【確】これはエストロゲンが骨吸収を抑制する働きを持つためであり、その分泌が急減する閉経前後の数年間で骨密度が大きく低下する。

多くの自治体で40歳以上の女性を対象に骨粗鬆症検診が実施されている。対象年齢に達したら受診することが推奨される。骨密度は自覚症状では判断できず、最初の骨折で初めて発覚することが多い。

60代―筋力が「生活の質」に直結し始める

 60代は健康寿命の分岐点にあたる。握力と歩行速度の低下が、転倒・骨折・要介護へと直結し始める年代である。

 握力については、男女でピーク年齢が約10年異なる点が重要である。スポーツ庁の体力・運動能力調査によれば、握力のピークは男性が30〜34歳、女性が40〜44歳であり、他のテスト項目に比べてピークに達する年代が遅い。
【確】ピーク以後は緩やかに低下し、60〜64歳には男性でピーク時の約90%、女性で約85%に、75〜79歳には男性で約70%、女性で約75%まで低下する。

 この年代から意識すべきなのがサルコペニア(加齢に伴う筋肉量・筋力の低下)である。日本では、アジアサルコペニアワーキンググループが2019年に発表した診断基準(AWGS2019)が用いられている。

表2

 AWGS2019では、骨格筋量の低下が必須条件であり、これに筋力または身体機能のいずれかの低下が加わればサルコペニアと判定される。【確】

 また2019年の改訂により、DXAやBIAの測定機器がない施設でも、症例抽出と握力・5回椅子立ち上がりテストによって「サルコペニアの可能性あり」と判定できるようになった。これにより、一般のクリニックや地域の保健事業でもスクリーニングが実施しやすくなっている。

日本人高齢者における実際の有病率
 東京都健康長寿医療センター研究所が日本人一般高齢者1,851人を約6年間追跡した研究では、サルコペニアの有病率は男性11.5%、女性16.7%だった。年齢とともに上昇し、75〜79歳では男女ともに約2割、80歳以上では男性の約3割、女性の約半数が該当する。そしてサルコペニアがあると、死亡・要介護化のリスクがいずれも約2倍高まることが示された。【確】

 なお日本のフレイル有病率は、65歳以上全体で10%前後とされる。

3-4 70代〜80代―フレイルという概念

 フレイルとは、日本老年医学会が英語のfrailtyの訳語として提唱した用語で、「加齢に伴う予備能力低下のため、ストレスに対する回復力が低下した状態」を指す。【確】

 重要なのは、フレイルが要介護状態に至る前段階として位置づけられており、身体的な脆弱性だけでなく、精神・心理的脆弱性や社会的脆弱性といった多面的な問題を含む概念である点である。そして、適切な介入によって健常な状態に戻りうる可逆的な状態とされている。

3-4-1 フレイルの評価―改訂日本版CHS基準(J-CHS)

 日本では、FriedらのCHS基準を日本人高齢者に合わせて修正したJ-CHS基準が用いられ、2020年に国立長寿医療研究センターにより改訂された。以下の5項目のうち3項目以上に該当すればフレイル、1〜2項目でプレフレイル(前段階)、該当なしで健常(ロバスト)と判定する。【確】表3

④ 歩行速度は最も実用的な指標
 秒速1.0mという基準は、覚えておく価値がある。日本の多くの横断歩道の青信号は、おおむね秒速1.0mで渡り切れるように設計されている。「青信号で渡り切れなくなった」は、医学的に意味のあるサインである。特別な器具を必要とせず、日常生活の中で自然に気づける点で、極めて実用性が高い。

3-4-2 フレイルとサルコペニアの関係

 この二つの用語は混同されやすいが、包含関係にある。サルコペニアが筋肉量の減少と身体機能の低下を定義するのに対し、フレイルは精神機能や社会性の低下も含めた、より広い範囲を指す。サルコペニアはフレイルに含まれる概念と考えてよい。

 さらに、骨や筋肉、関節など運動器の障害によって移動機能が低下した状態を「ロコモティブシンドローム(ロコモ)」と呼び、サルコペニアはロコモの原因の一つと位置づけられている。

概念の整理
 サルコペニア(筋肉量・筋力の低下)⊂ロコモ(移動機能の低下)⊂フレイル(身体・精神・社会を含む脆弱性)外側に行くほど扱う範囲が広い。介入する際は、筋肉だけを見るのではなく、栄養・社会参加まで含めて考える必要がある。

3-5 90代〜100歳―予備能が尽きた先の生理学

 この年代は、他の年代と質的に異なる。各臓器の予備能が大きく低下しているため、若年者なら数日で回復する出来事が、不可逆的な機能低下の引き金になりうる。

3-5-1 なぜ「急に」悪くなるのか

 90代の方が「先週まで元気に歩いていたのに、入院したら歩けなくなった」という経過をたどることがある。これは怠慢でも不運でもなく、生理学的に説明できる現象である。

表4

90歳以降で最も重要な原則
 「動かない期間を作らない」。これに尽きる。高齢期の不動は、単に筋肉が落ちるだけでなく、嚥下機能、認知機能、腸の動き、骨密度に同時に悪影響を及ぼす。やむを得ず臥床する場合でも、ベッド上での足関節の運動、座位を取る時間の確保など、可能な範囲で動きを維持することが予後を大きく左右する。入院時には、医療者に「早期離床の方針か」を確認することを勧める。

3-5-2 百寿者研究が明らかにしたこと

 100歳前後まで到達する人(百寿者)については、1980年代後半から日本・イタリア・米国などで研究が蓄積されている。これまでの研究から、百寿者に共通する特徴として以下の3点が報告されている。【幅】

表5

 特に注目されているのが③の炎症である。慶應義塾大学医学部百寿総合研究センターと英ニューカッスル大学の共同研究チームは、百寿者684人(うち105歳以上407人)とその直系子孫・配偶者、85〜99歳の高齢者を含む計1,554人を対象に、貧血・糖脂質代謝・臓器予備能・炎症・細胞老化(テロメア長)のバイオマーカーを測定した。

炎症が最も強く余命と関連した
 この研究では、各領域のバイオマーカーのうち炎症だけが85〜99歳、100〜104歳、105歳以上のすべての年齢群において有意に余命と関連した。さらに、どの年代群でも、炎症マーカー値が低いグループは高いグループに比べて生活機能や認知機能も高いことが判明した。遺伝的に100歳到達確率が高いと考えられる百寿者の直系子孫でも、炎症マーカーが低く抑えられていた。【幅】

 この知見は実践面でも意味を持つ。第1章で触れた慢性炎症(inflammaging)は、喫煙・肥満・運動不足・歯周病・睡眠不足によって亢進することが知られている。炎症を直接測って下げる方法が確立しているわけではないが、本レポートが挙げる生活習慣上の推奨は、いずれも慢性炎症を抑える方向に働くと考えられる。

解釈上の注意
 百寿者研究の知見の多くは観察研究に基づく相関であり、「その特徴があったから長生きした」のか「長生きできる体質だからその特徴を示す」のかを完全に区別することはできない。また、寿命に対する遺伝の影響はデンマークの双子研究から20〜30%程度と報告されているが、100歳を超えるような長寿では遺伝の影響がより強いと考えられている点にも留意が必要である。

(つづく)

【Hayate Kirishima】

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