2024年11月26日( 火 )

【BIS論壇No.361】中国「一帯一路」の現状

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 NetIB-Newsでは、日本ビジネスインテリジェンス協会理事長・中川十郎氏の「BIS論壇」を掲載している。
 今回は2021年12月12日の記事を紹介。

カザフスタン イメージ    2013年9月に中央アジアのカザフスタン、10月にインドネシアで習近平・中国国家主席が打ち出した意欲的な広域経済圏「一帯一路」構想は8年を経て具体化しつつある。しかし、20年初頭から急激に世界的に流行したコロナ禍の影響もあり、進行が一時的に滞っているようである。

 この構想は、陸のシルクロードのユーラシア大陸東の中国からヨーロッパへ高速鉄道で結ぶ中欧班列と海で結ぶ21世紀海上シルクロードで構成される遠大な計画である。欧米からは「債務の罠論」などの批判が高まっているが、コロナ禍が落ち着けば、世紀の野心的な「一帯一路プロジェクト」はさらに進展すると思われる。

 「一帯一路」に批判的な日本のメデイアでは下記のような報道が見られるが、「一帯一路」構想は長期的な視野で見ることが必要ではないかと思われる。

 スリランカのハンバントタ港の中国の租借も中国の「債務の罠論」と批判されているが、とくに中国が広域経済圏構想「一帯一路」で欧州の拠点港と位置づけるギリシャのピレウス港については「ギリシャの港町が中国に売られた」「労働環境など不信」といった批判が一段と強まっている。 

 日本経済新聞(12月10日付)によれば、「ピレウス港をめぐり、港を経営する中国国有企業に対する地元の反発が強まっている。劣悪な労働環境や約束された投資の遅れなどが原因だが、背景には欧州全体で強まる中国への警戒もある。蜜月とみられていた2国間関係にきしみが見えてきた」と報じている。

 ピレウス港は、中国から欧州や中東・北アフリカへ向かう「一帯一路」の玄関口として機能している。中国遠洋海運集団(コスコ)は2008年に運営権の一部を取得。16年に51%、21年に67%を取得している。9年から19年までの10年間で貨物の取扱量は約7倍に増加。2,000人以上の直接雇用と、1万人の間接雇用を生み出していると中国側は強調している。中国が約束したホテル・ショッピングモール建設の遅延などに対しても、ギリシャ側の批判があるという。

 一方、12月12日付の同紙は「中国・パキスタン間の一帯一路にブレーキ」と報じた。中国が注力した「中国・パキスタン経済回廊(CPEC)は何の恩恵ももたらさなかった」という現地自動車部品工業の関係者の話を紹介するとともに、68億ドルを費やすカラチ・ぺシヤワル間の鉄道改良計画などのプロジェクトが行き詰っていると伝えた。

 さらに、鳴り物入りで着工したインドネシアのジャカルタ・バンドン間の新幹線計画も大幅に遅れていると批判されている。12月3日付の読売新聞でも、総工費6,780億円の巨大プロジェクト「中国ラオス鉄道完成、一帯一路債務のわな恐れ」と批判的な論評だ。

 かつて日本のODAをめぐり、アジアや中南米でプロジェクトの遅れや失敗があった。発展途上国でのプロジェクトには紆余曲折は付きものだ。とくにコロナ後のプロジェクトでは、予期せぬ遅延の発生は避けがたい。

 日本のメデイアは、「一帯一路=債務の罠」という一面的な発想から脱却することが必要ではないか。コロナ後の中国は北斗衛星通信網建設、医療一帯一路構築なども目指しており、プラス面の評価も公平に下すべきかと思われる。


<プロフィール>
中川 十郎(なかがわ・ じゅうろう)

 鹿児島ラサール高等学校卒。東京外国語大学イタリア学科・国際関係専修課程卒業後、ニチメン(現:双日)入社。海外駐在20年。業務本部米州部長補佐、米国ニチメン・ニューヨーク開発担当副社長、愛知学院大学商学部教授、東京経済大学経営学部教授、同大学院教授、国際貿易、ビジネスコミュニケーション論、グローバルマーケティング研究。2006年4月より日本大学国際関係学部講師(国際マーケティング論、国際経営論入門、経営学原論)、2007年4月より日本大学大学院グローバルビジネス研究科講師(競争と情報、テクノロジーインテリジェンス)

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