2024年11月21日( 木 )

西九州新幹線整備の課題とは(前)

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運輸評論家 堀内 重人 氏

佐賀県が提示、3つの「懸案事項」

新幹線 イメージ    現在、西九州新幹線の武雄温泉~長崎間の建設工事が進められている。予定では、2022年秋に開業が予定されているが、問題となるのは未着工の新鳥栖~武雄温泉間である。

 2021年11月22日に、第5回目の佐賀県の地域交流部長や国土交通省の鉄道局幹線鉄道課長らによる「幅広い協議」が実施された。今回は、前回の協議で「宿題」となっていた懸案についての進展が見られた。

 第4回目の「幅広い協議」は、2021年5月31日に開催されたが、地元である佐賀県側からは、以下に挙げる3つの懸案事項が提示された。

(1)佐賀県内の走行ルートについて、3案すべてをふまえた比較検討を行う
(2)新幹線開通後の在来線の今後について
(3)フリーゲージトレインの整備を国が断念しているが、最高速度を270㎞/hから200㎞/hに下げれば、実現可能か否かの検証を行うこと

 佐賀県は、「新幹線による短縮効果がほとんどない」という姿勢である。さらに在来線の特急列車が廃止される可能性もあり、利便性の低下に危機感を抱いている。佐賀県は、在来線を高速化するスーパー特急、フリーゲージトレインによる在来線走行、対面乗換方式により「佐賀県内を新幹線以外の方式にする場合」なら合意するとしている。

 それゆえ国が、「新幹線ありき」で話を進めている状況に、不信感を募らせている。そこで「きちんと議論ができるための資料を用意してほしい」という旨を、佐賀県が求めており、それに対して国が「宿題」として持ち帰った。

 佐賀県内で、フル規格で新幹線を建設する場合のルート案の比較に関しては、3案を比較検討した結果が提示された。3ルートとは、新鳥栖から分岐する(1)「佐賀駅を通るルート」、(2)「佐賀市北部を通るルート」と、(3)筑後船小屋から分岐する「佐賀空港を経由するルート」である。

 整備される延長距離は、いずれのルートであっても、約50㎞と大差はないが、建設費は佐賀駅ルートの約6,200億円に対し、空港経由ルートは約1兆1,300億円と、約2倍になるという。

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 次に新幹線整備による収支改善効果であるが、前者が年間約86億円に対し、後者はほぼ皆無となった。評価結果としては、佐賀駅ルートが最も良いと結論付けられた。

議論は平行線を辿る

 国は、新幹線が開通した後の在来線については、優等列車の役割が新幹線に移行すると明言しており、フル規格新幹線の開通後は、在来線特急は廃止の方向で考えていると明らかにした。

 ルート選定資料については、数値の根拠を確認するやり取りにとどまっている。だが議論は、「フル規格新幹線ありき」で話を進めるのはいかがなものか、となってしまう。

 協議は、1時間45分であったが、佐賀県は以下の点で国の対応に不満がある。

(1)九州全体やアジアの成長の話ばかりで、佐賀県にどのような受益があるのかが、示されていない
(2)佐賀県民の暮らしに一番直結する、在来線特急での福岡方面などへの移動利便性が低下しないかどうか、それに対する国の考えが示されていない

 佐賀県の立場とすれば、予算を組んで大金を出す以上、「県民がどれだけ得をするのか」という旨を、説明する必要がある。しかし現状では、県民に説明をしたとしても、理解が得られないと考えている。

 佐賀県は、武雄温泉~博多間を、フリーゲージトレインで結んで欲しいと思っている。
 だがフリーゲージトレインは、最高速度が300㎞/hで開発されたが、「フル規格新幹線内では、300㎞/hの走行は厳しい」という理由から、最高速度を引き下げて270㎞/hにしている。しかし、それでも耐久性・経済性の両面において、実用が困難なこともあり開発を断念している。それゆえ国としては、「フリーゲージトレインの開発に、予算や時間を費やすことは現実的ではない」と考えている。

 一方の佐賀県は、フリ-ゲージトレインの最高速度を200㎞/hに引き下げれば、実現が可能になるはずだと考えており、議論は平行線を辿っている。

(つづく)

(後)

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