2024年08月08日( 木 )

TSMCの進出で熊本空港アクセス鉄道計画や「大空港構想」見直しへ(後)

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 世界大手の半導体メーカー「台湾積体電路製造」(TSMC)が11月、熊本県菊陽町への進出を表明。政府は、同社への工場建設補助金など約6,000億円を盛り込んだ21年度補正予算案を編成し20日成立した。
 これに呼応して、熊本県は工場進出地近くのJR豊肥線と熊本空港とを結ぶ「空港アクセス鉄道」の建設計画や、一帯を含む熊本都市圏東部地域の将来像を描く「大空港構想」の見直しに着手した。

 「まず工場周辺の下水道の整備。2年間に30億円投入する。次に空港と工場を結ぶ南北道路3本の整備。(TSMCの工場と隣接する)セミコンテクノパークとJR豊肥線の駅を結ぶシャトルバスの増便や新設。中九州横断道路(自動車専用道)の熊本・合志・大津道路も10年計画で整備する。国交省も自分たちの不手際でTSMC誘致に支障を来したらいけないと思って頑張っているようだ」。

 一帯を主地盤にする自民党の坂本哲志・前地方創生相(衆院熊本3区)は、TSMC誘致という国家プロジェクトに付随する公共投資の一端について、詳しく説明する。

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 こうした国の投資を背景に、熊本県は2016年4月の熊本地震を機に作成した『大空港構想 ネクストステージ』の見直しに入った。構想は、熊本空港と周辺地域(熊本市東部、益城町、菊陽町、大津町、西原村)を一体の「大空港」として捉えて「創造的復興」を目指す。

 構想見直しは、蒲島郁夫知事が14日の12月県議会本会議で表明したばかり。県交通政策課によると、(1)空港発着枠の拡大による空港の機能強化(2)空港周辺へのさらなる企業の集積(3)交通ネットワークの強化-の3つの視点で作業を進める。

 熊本空港の難点の1つは現在、国際航空貨物を扱えないこと。県交通政策課の担当職員は「この機能と設備を整えない限り、台湾など海外との航空貨物のやり取りができない。整備が焦眉の急」と明かす。

 また熊本空港と結ぶ旅客の定期便も、台湾は高雄市との間に就航しているものの、TSMC本社は台北市郊外の新竹市で台北線の新規開拓も緊急課題の1つ。

 空港周辺にはTSMCの取引企業や関連企業の立地も予想される。熊本県は空港周辺エリアで新産業創出事業「UXプロジェクト」に取り組み、医薬品やバイオの集積を図っている。今後、同プロジェクトとの相乗効果も考え、新たな工業団地の取得、造成を計画する。

 同空港は20年4月、航空管制を除き滑走路、駐機場、空港ビル、駐車場を、民間の熊本国際空港(株)が一体経営するコンセッション方式になった。同社は三井不動産や九州電力など11社が出資する。手始めは、国際線ビルと国内線ビルを一体化したターミナルビルが23年春にオープンする予定だ。

 コロナ禍前の同社の計画では、国際線は27年度で11路線。既存の韓国2路線、台湾、香港各1路線の計4路線から7路線増と意欲的。交通ネットワークも、「大空港」エリアにとどまらず、福岡、長崎、鹿児島といった九州各地との中長距離ネットワークの再構築を迫られる。

 熊本県は、地理的には九州の中央にありながら、各地と結ぶ交通網はさほど発達していない。TSMC誘致という”千載一遇”のチャンスをいかしてネットワークづくりを進めるなら、九州の重要拠点の1つになる可能性は十分あるとみられる。

2023年春の熊本空港ビルリニューアルオープンを訴求する熊本国際空港会社のホームぺージ
2023年春の熊本空港ビルリニューアルオープンを訴求する
熊本国際空港会社のホームぺージ

(了)

【南里 秀之】

(前)

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