2024年12月24日( 火 )

みずほ、露骨な「組織防衛」人事~首脳を旧3行で分け合う(中)

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 「大山鳴動して鼠一匹」。大騒ぎした割には、期待はずれの結果に終わる、という意味。(株)みずほフィナンシャルグループ(FG)のトップ人事をめぐる騒動は続発したシステム障害の責任を取って3首脳が一斉に退陣する異例な事態に。蓋を開けてみると、FG社長は旧(株)日本興業銀行出身、FG会長は旧(株)第一勧業銀行出身、(株)みずほ銀行頭取は旧(株)富士銀行出身と、旧行のバランスを重視した布陣となり「組織防衛」の意図が透けて見える。

木原氏の大抜擢は、対金融庁シフトか

大手町 イメージ    それでは、なぜ木原氏なのか。一連のシステム障害の背景には旧興銀主導の経営改革があると指摘されるなか、木原氏の就任でトップは3代続けて興銀出身者が務める。興銀がもたらしたシステム障害の抜本的改革を、興銀出身のトップに委ねる。理解に苦しむところだ。

 メディアが大きく報じたのは、みずほの新社長・木原正裕氏の実弟は、岸田文雄・首相の「懐刀」と呼ばれ、政界で注目を集めている木原誠二・官房副長官だということだ。

 1月17日のみずほFGの記者会見でその質問が出た。みずほ側は、「選任の時に弟が政治家ということは考えていない」と社外取締役の甲斐中辰夫・指名委員長(元最高裁判事)は否定した。もとより、肯定するわけはないが、なるほどそういうことかと合点がいった。

 対金融庁シフトととらえれば、不可解な人事の狙いが透けて見える。一言でいえば「組織防衛」。みずほの社外取締役と金融庁は極度の緊張関係にあるからだ。

金融庁はみずほの社外取締役を「役立たず」と指弾

 みずほ銀行は昨年2月から今年1月まで、計10回のシステム障害を起こした。

 21年11月26日、金融庁はみずほ銀行と持株会社のみずほFGに業務改善命令を出した。「短期間に複数のシステム障害を発生させ、個人・法人の顧客に重大な影響を及ぼした」と経営陣の責任を追及。これを受け、みずほの3首脳が退任した。

 業務改善命令を出した金融庁が最終的に問うたのは、システム障害の背景にあるガバナンスの脆弱性だ。

 金融庁は業務改善命令で、取締役会が坂井社長ら執行部門に対して適切な指示を与える態勢になっていなかったと指摘。みずほの取締役会の構成は計13人のうち社外取締役が6人を占めている。今回の処分は、社外取締役の責任も問う過去に例のない内容だった。

 18年に、興銀出身の坂井氏が社長に就いた。当時のみずほ最大の課題は、他のメガバンクと比較して大きく劣ったコスト構造だった。そこで、19年度からの5カ年計画で、人員や国内拠点の削減を進めた。

 しかし、「副作用」がでた。システム関連の人員削減を進めた結果、一連のシステム障害が発生したのだ。第三者委員会が21年6月に公表した報告書によると、基幹システムの開発や運用に関わった従業員はシステム稼働前の約1,100人から21年3月までに約500人に半減していた。

 経営企画部を頂点とする銀行のヒエラルキーで、システム要員は最下層にいた。しかも、人事異動で人減らしの対象となり、同部門の人員が激減したのだ。

 金融庁は、取締役会について、構造改革にともなうシステムリスクに係る人員の削減計画や業務量の状況について、十分の審議を行っていないと指摘。社外取締役は執行部の説明を追認するばかりで、チェック機能が不十分だった。社外取締役が多数で構成するリスク委員会や監査委員会が機能していなかった点も、問題点として挙げた。

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 金融庁は「社外取締役は役立たず」と指弾したのだ。社外取締役を総入れ替えすべきと唱えるメディアもあらわれた。社外取締役はピンチだ。

 金融庁にあれこれ口を挟ませないように、金融庁と折衝する窓口となるFGトップに、岸田首相の「懐刀」を弟にもつ木原氏を据えた意図が見えてくる。

(つづく)

【森村 和男】

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