2024年11月23日( 土 )

みずほ、露骨な「組織防衛」人事~首脳を旧3行で分け合う(後)

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 「大山鳴動して鼠一匹」。大騒ぎした割には、期待はずれの結果に終わる、という意味。(株)みずほフィナンシャルグループ(FG)のトップ人事をめぐる騒動は続発したシステム障害の責任を取って3首脳が一斉に退陣する異例な事態に。蓋を開けてみると、FG社長は旧(株)日本興業銀行出身、FG会長は旧(株)第一勧業銀行出身、(株)みずほ銀行頭取は旧(株)富士銀行出身と、旧行のバランスを重視した布陣となり「組織防衛」の意図が透けて見える。

システム業者を一本化しなかったことで障害が多発

大手町 イメージ    「システム軽視」はみずほの宿痾である。富士銀行、第一勧業銀行、日本興業銀行の3行が合併し、みずほ銀行が誕生した2002年4月1日の初日、ATM(現金自動預け払い機)が使えなくなった。二重引き落としや給与振り込みの遅れ、誤送金が相次いで、トラブルの総数は250万件にのぼったのだ。

 ほかのメガバンクである(株)三菱UFJ銀行と(株)三井住友銀行はそれぞれの合併時に、システムを一本化し、開発や運用については、三菱UFJは日本IBM(株)、三井住友はNEC(株)に委ねた。

 しかし、3行が統合して誕生したみずほは主導権争いから、第一勧銀の富士通(株)、富士銀の日本IBM、興銀の(株)日立製作所のシステムを併存させた。合併人事さながらに、3者に顏を立てたシステム統合が2002年4月と11年3月の大規模なシステム障害を招いた。

 2度の大規模障害を受けて、4,500億円を投じた新基幹システム「MINORI」が19年7月に全面稼働した。だが、2度の教訓はないがしろにされた。ここでも旧3行の縄張り意識が影を落とした。旧3行が利用していた富士通、日本IBM、日立製作所に加えて、(株)NTTデータも携わり、他行に比べて一段と複雑な構造になった。

 旧富士銀、旧第一勧銀を追い落としてトップの座についた旧興銀の佐藤康博氏が主導権を握った。「興銀一強体制」を盤石のものにするため、腹心の石井哲氏を「MINORI」のシステム部門のトップに据えた。

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 石井氏はCIO(最高情報責任者)に就任するまでは、取締役会室長、営業統括や人事グループ長を歴任していた。システム開発や運用はズブの素人。FGの次期社長に就けるための箔付け人事である。この人事を金融庁は「システム軽視」として槍玉に挙げた。石井氏も、佐藤康博会長とともに引責辞任した。

 主導権争いがシステムトラブルの温床になった。今回も旧3行のシステム業者を一本化せず引き継いだ勘定系基幹システム「MINORI」が障害を多発させる結果を招いた。

みずほはシステムをIBMに一本化できるか

 みずほFGは1月17日、木原正裕氏を新社長とする首脳人事に合わせて新たな経営体制を発表した。注目されたのは、みずほFGのグループ執行役員として日本IBMの下野雅承名誉顧問を招聘すること。4月1日付で、みずほFGのグループ執行役員特命事項担当と、みずほ銀行の非常勤取締役に就く。

 下野氏は1978年に日本IBMに入社し、2001年に取締役就任。取締役副社長執行役員や取締役副会長などを歴任し、20年に名誉顧問になった。

 金融庁から「システム軽視」と指弾されたみずほFGの取締役会が、システム重視として打ち出したのが、日本IBMの下野氏の招聘だ。システム障害対策のため、昨年、日本IBMの理事を副CIO(最高情報責任者)に招いており、IBM色は一段と強まる。

 木原氏は1月17日の社長就任の記者会見で、「今はみずほにとって正念場だ。私に課せられた使命はシステム、業務の安定稼働の確保にある」と語っている。

 木原氏の新社長内定が報道された日に、みずほは10度目のシステムトラブルに見舞われた。システムの安定稼働が「私に課せられた使命」と悲愴な決意を述べるゆえんだ。

 度重なるシステムトラブルを根絶するには、他行のようにシステムを一体化させるしかない。4社が併存しているシステム業者を日本IBMに一本化できるか。木原正裕・新社長の「正念場」といえる。

(了)

【森村 和男】

(中)

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