【研究】無二のビジネスモデルに打撃 真価問われる対応力(後)
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家庭用、業務(飲食)用に1時間無料宅配のビジネスモデルを構築し、業容を拡大してきた(株)カクヤスグループ。2019年に株式上場をはたし、20年には福岡の有力業務用卸2社を買収した。しかし、21年3月期は赤字に転落し、物流網などビジネスモデル再編を余儀なくされている。逆境を成長の糧としてきた老舗企業はコロナ直撃も転じることができるか。
博多2社を合併 「カクヤスモデル」導入へ
こうしたなかで、3月にダンガミを存続会社にサンノーと合併し、ダンガミ・サンノー(株)に変更する。両社は名実ともに地場酒販業界の代表的存在。ダンガミはカクヤス以上の歴史を有し(1916年創業)、居酒屋やレストラン系の顧客に強い。サンノーは中洲の飲食ビルテナントなどクラブ・バーに浸透している。カクヤスグループはこうした実情を踏まえ、両社の自立経営を継続してきた。今後も時間をかけてグループの価値観共有の浸透に取り組んでいく構えだ。
それでも統合に舵を切るのは間接費削減だけでなく、本来の買収目的である「カクヤスモデル」の地方展開を進めるためだろう。現状、サンノーが「リカーズABC」を中洲に構え、ダンガミは「酒のガリバー」など9店舗を中洲や薬院などで展開している。「酒のガリバー」の一部店舗ではすでに2時間無料配達サービスを開始しており、既存のインフラを活用した「カクヤスモデル」の本格導入を進めるとみられる。当然、導入店舗拡大や商材の拡充、配達時間の短縮化などが視野に入ってくる。ただし、「酒のガリバー」ではかつて無料宅配サービスが採算割れとなり、一部有料に戻した経験がある。規模や人口密度で劣る福岡は首都圏や大阪とは異なる困難さが待ち受ける。失敗すれば「カクヤスモデル」の限界を示す契機になりかねない。一方で、コロナ下でも事業化できれば、より規模の小さい市場での無料宅配展開の可能性が広がる。「カクヤスモデル」の真価が問われるだけに、ダンガミ・サンノーに課された役割はひときわ大きいものとなる。
命運握る人材確保とコスト抑制
DX化が顕著な物流業界だが、カクヤスが得意とするラストワンマイルは人力が頼みだ。カクヤスグループの21年3月末の就業員数は約1,600人、パート・アルバイトは約1,300人。ビジネスモデルの維持発展のためには彼らの定着と新戦力の継続的な確保が不可欠だ。株式上場やテレビCM放映で認知度が上昇しているのは間違いない。しかし、物流業界の活況やフードデリバリー業界の台頭など人材獲得競争は厳しさを増す。消費者にとってメリットの「重いもの」「かさ張るもの」は配送員にとっては負担が大きい。より強力な対策が求められる。
こうした環境でカクヤスが力を入れているのが地方の高校生だ。専任の担当者を配置し、全国の高校を訪問して関係構築と強化を図っている。待遇面では高卒者専用の社員寮を設置し、運転免許取得の支援まで行っている。そして、一定期間勤務すれば会社が負担した免許取得に関する費用を返済不要とする制度も設けている。だが、卸売業の同社が価格決定権のある業種と比べ、給与面でハンデを負うことは否めない。
ここで注目したいのが組織づくりの手法だ。現社長・佐藤順一氏は自身の役割を「大きな事業の決断」と「社風のマネジメント」と規定する。カクヤスグループの業態変更や株式上場、M&Aなどが大きな事業を指すと見られる。では、マネジメントすべき「社風」とはどのようなものか。佐藤氏は社員との「目線を合わせた会話」に気を配っている。カクヤスグループでは役員でも「さん」づけで呼ぶ風潮があり、役職者、管理職、一般社員いずれの関係性においても距離感が近い。風通しを良くすることで自立型人材の育成に力を注いでいる。宅配現場においては道路事情や顧客のライフスタイルは千差万別。配達員は臨機応変さが求められるが、常に「自分ならどうするか」を意識させている。配達員が主体的に臨めば「かさばり」や「重たさ」をやりがいに転換することができる。金額に変えられない報酬で人材採用・定着を図っている。
ただし、自社で物流拠点や車両、人材を抱えるほど固定費負担は増加していく。21年3月期の粗利率は、一般向け売上の拡大が奏功したのか前年の19.8%から21%に上昇した。ところが、販管比率は前年の18.6%から24.2%と5.6%も上昇している。給与や配送費などの人的コストの売上高に占める比率も9.6%から12.2%に上昇した。現状の比率が続くなら、5%の経常利益が確保できる計算だ。
徹底した顧客目線と風通しの良い社風づくりで確立したほかに類を見ないスタイルだが、維持・発展していくためにはコスト構造の改善を避けて通れない。
(了)
【鹿島 譲二】
<COMPANY INFORMATION>
代 表:佐藤 順一ほか1名
所在地:東京都北区豊島2-3-1
設 立:1982年6月
資本金:3,651万円
売上高:(21/3連結)802億2,600万円法人名
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