2024年12月04日( 水 )

実践的な脱炭素論~日本の再エネ普及の現状と展望(前)

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環境エネルギー政策研究所
所長 飯田 哲也 氏

 2020年8月9日、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が「人間の影響が大気、海洋および陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない」と従来から踏み込んだ第6次報告書を公表した。実際に、豪雨災害や異常高温、広大な山火事など異常気象が毎年のように繰り返され、気候変動に対する関心がかつてなく高まってきている。深刻化する気候危機と、それでも変わらない日本政府に対して私たち市民はどのように行動すべきか、取り組むべき課題も含めて考察する。

人間が引き起こした気候危機

 折しも、私たち人類は、昨年から新型コロナ感染症(COVID-19)パンデミックに直面してきた。2020年は、世界全体の経済活動の停滞や運輸交通の大幅な縮減で、世界のエネルギー需要は前年比4%減少し、二酸化炭素は6%減少した(【図1】、文献2)。

図1、図2

 この二酸化炭素の削減には、COVID-19パンデミックによるエネルギー需要の減少に加えて、世界の再生可能エネルギーの拡大も貢献している(【図2】、文献3)。

「緑の復興」(グリーン・リカバリー)を目指す欧米

 「緑の刺激策」「緑の復興」を求める声の筆頭は欧州である。欧州委員会は、20年5月27日にCOVID-19からの経済再建を図るために、総額7,500億ユーロ(約89兆円)規模の「次世代のEU」と呼ばれる復興基金案を公表し、これを成長戦略の柱に位置づけるとした(文献4)。米国でも18年11月に民主党議員が「グリーン・ニューディール」を起草し、それを踏襲したバイデン米大統領も、グリーン・ニューディール政策を中心に据えて、110兆円規模のインフラファンドの予算を決定している。

 いずれも、背景には気候変動への危機感がある。その象徴が、18年8月に「気候のための学校ストライキ」という看板を掲げてたった1人でデモを始めた、当時15歳だったスウェーデンのグレタ・トゥーンベリだ。その後、彼女に触発され賛同した若者を中心とする人々が「未来のための金曜日」という運動を立ち上げ、世界中で数百万人規模の同時デモも催されるようになった社会現象だ。

進展するエネルギー大転換

図3

 改めて、この10年を振り返ると、私たちは今、大変革の真っ只なかにいることがわかる。電力分野では、風力発電と太陽光発電の普及拡大とコストダウンが著しい【図3】。09年からの10年で世界全体の風力発電は160GW(ギガワット、百万kW)から650GWへと4倍に拡大し、コストは7割下がった。太陽光発電は、23GWから630GWへ27倍に拡大し、コストは9割下がっている。風力発電と太陽光発電は、今や世界の多くの国や地域で石炭火力を下回るコストになっただけでなく、今後も下がってゆく傾向だ。

 ドイツが2000年に導入した固定価格買取制度(FIT)が中国を始めとする世界各国に広がり、それが市場拡大と技術学習効果による性能向上とコストダウンという好循環を生み出した。

 化石燃料や原発をエネルギーの基軸として見ていた「主流派」の専門家・行政・企業・政治家は、10年前は太陽光発電と風力発電を「クリーンだが高コストで取るに足らないエネルギー」と見ていた。それが今や、そうしたエネルギー主流派の多くが「クリーンで無尽蔵で純国産でしかも最も安いエネルギー源」という認識に変わった。

図4

 さらに化石燃料産業の崩壊さえ予見されはじめた。19年9月、英国の金融専門シンクタンクが「今後10年ほどで数百兆円規模の化石燃料市場の崩壊が起きる」と報告した(【図4】、文献5)。太陽光と風力、そして蓄電池の継続的なコスト低下によって、2030年代前半までに既存の化石燃料発電のコストを下回り、その大半が「座礁資産」、つまり回収不能費用となると指摘した。

 運輸交通分野でも大変革が始まっている。電気自動車(EV)も年間販売量がおよそ2,000台(08年)から320万台(20年)へとこの12年で1,600倍に拡大し、反比例してリチウムイオン蓄電池のコストもこの10年で10分の1以下に下がっている(【図5】、文献6)。
 技術学習効果によって今後も性能改善とコスト低下を見込めるこれら3つの電力技術(太陽光発電、風力発電、蓄電池)が、今後の電力とエネルギー、そして輸送分野の大転換で中心的な役割を担うことが、最も確実な将来像となった。

図5

(つづく)

引用文献
1 IPCC AR6 Climate Change 2021: The Physical Science Basis, August 6th 2021 https://www.ipcc.ch/report/ar6/wg1/
2 IEA Global energy-related CO2 emissions, 1990-2020, https://www.iea.org/data-and-statistics/charts/global-energy-related-co2-emissions-1990-2020 ^
3 REN21 Global Status Report 2020, https://www.ren21.net/acef2020/ ^
4 European Commission “The European Green Deal” COM(2019) 640 (2019年12月11日) https://ec.europa.eu/info/sites/info/files/european-green-deal-communication_en.pdf ^
5  Carbon Tracker “The Trillion Dollar Energy Windfall” (2019年9月5日) https://carbontracker.org/reports/the-trillion-dollar-energy-windfall/ ^
6 Hannah Ritchie “The price of batteries has declined by 97% in the last three decades” Our World in Data, June 04, 2021 https://ourworldindata.org/battery-price-decline ^


<プロフィール>
飯田 哲也
(いいだ・てつなり)
1959年、山口県生まれ。京都大学大学院工学研究科原子核工学専攻修了。東京大学先端科学技術研究センター博士課程単位取得満期退学。原子力産業や原子力安全規制などに従事後、「原子力ムラ」を脱出して北欧での研究活動や非営利活動を経て環境エネルギー政策研究所を設立し現職。国際的にも豊富なネットワークをもち、21世紀のための自然エネルギー政策ネットワーク理事、世界バイオエネルギー協会理事、世界風力エネルギー協会理事なども務める。政権交代後に、中期目標達成タスクフォース委員、および行政刷新会議の事業仕分け人、環境省中長期ロードマップ委員、規制改革会議グリーンイノベーション分科会委員、環境未来都市委員などを歴任。3.11後にいち早く「戦略的エネルギーシフト」を提言して公論をリードしてきた。福島第一原子力発電所事故発生以降は、経済産業省資源エネルギー庁、総合資源エネルギー調査会基本問題委員会委員(〜2013年)や、内閣官房原子力事故再発防止顧問会議委員(〜12年)、大阪府、大阪市特別顧問(〜12年)など、政府や地方自治体の委員を歴任。孫正義氏に付託されて「自然エネルギー財団」設立の中心を担い、同財団の業務執行理事も務めた。14年から(一社)全国ご当地エネルギー協会 事務総長。主著に『エネルギー進化論』(ちくま新書)、『エネルギー政策のイノベーション』(学芸出版社)、北欧のエネルギーデモクラシー』など多数。

(後)

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