2024年12月22日( 日 )

日本が直面する3正面脅威 大きく変わる安保上の変数

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国際政治学者 和田 大樹

自衛隊 護衛艦 イメージ    最近、いくつかのメディアで「3正面脅威」という言葉が用いられている。これは従来からある海洋覇権に徹する中国と核・ミサイルの開発・実験などを繰り返す北朝鮮に、ウクライナに侵攻したロシアを加えた3カ国を指すことは想像に難くない。要は、3正面脅威においてはロシアが最も大きな変数となる。

 2月24日にロシアがウクライナに侵攻して以降、欧米諸国は一斉に対露経済制裁を強化し、日本もそれに歩調を合わせている。日本もロシア政府高官への資産凍結や高級品目の輸出規制などだけでなく、在日本ロシア大使館の外交官たちを国外追放するなど厳しい姿勢を堅持している。それにより、日露は冷戦後最悪レベルに関係が冷え込み、ロシアも日本の外交官を国外追放にするなど、両国間では今後さらに対抗措置の応酬が激しくなる可能性がある。

 しかも、冷戦後最悪レベルの日露関係も影響してか、ロシアは日本周辺で軍事的な動きを見せている。たとえば、ロシア海軍は4月14日、ロシア極東沖の日本海でウクライナ侵攻の際にも使用した巡航ミサイル「カリブル」の発射実験を行い、3月30日には北方領土の国後島でロシア軍による軍事訓練が実施され、根室などでは地鳴りや地響きが起きたなどと訴える電話や通報が根室市役所に相次いだ。照明弾らしき光も相次いで目撃されたという。

 北方領土には2つの側面がある。1つは日本側からみる北方領土で、それは正にロシアとの領土問題である。しかし、ロシアにとっては別の側面もある。地理的に北方領土は太平洋につながる軍事的最前線であり、米国による軍事勢力圏に対抗する意味での要衝なのである。よって、ウクライナ侵攻で欧米とロシアの対立が激しくなる今日、ロシアにとって北方領土の軍事的重要性はさらに高まっているのだ。こういった現実が、正に日本が直面する3正面脅威といえるのかもしれない。以前、安全保障専門家のなかでは、日本が取るべき戦略として、ロシアと良好な関係を構築することで共に中国に対抗するという考えもあったが、もうそれは消えたといえよう。

 だが、もっと深くいえば、昨今の安全保障情勢で動く変数はロシアだけではない。要は、今後懸念される変数の話として、ウクライナに侵攻したロシアの動きによって中国がどう出てくるかがある。これについては、台湾への侵攻ハードルが上がった、習政権は米国のウクライナへの軍事的関与を注視し、米国が台湾防衛に積極的に関与しなくなるタイミングを見計らっているなど、外交・安全保障専門家の間でも議論が分かれている。

 しかし、台湾では大きな変化(変数?)が最近生じている。たとえば、台湾の民間シンクタンク「台湾民意基金会」が3月に発表した最新の世論調査結果によると、台湾有事に対して米軍が関与すると回答した人は34.5パーセントと昨年10月の65.0パーセントから30.5パーセントも大幅に急落したとされ、台湾市民の間には米軍がウクライナに直接関与しないことで、台湾有事の際にも米軍が関与しないことへの懸念が拡がっているとみられる。台湾政府も4月、中国による軍事侵攻に備えて民間防衛に関するハンドブックを初めて公表した。そこには有事の際に市民が身を守るための指針を示され、スマートフォンのアプリを使った防空壕の探し方、水や食料の補給方法、救急箱の準備方法、空襲警報の識別方法などが詳述されているという。また、台湾の国防部長(国防相にあたる)は3月、軍事訓練義務の期間を現行の4カ月からさらに延長する可能性も示唆している。

 以上のように、日本のメディアでは今日3正面脅威が叫ばれているが、今後安全保障情勢に照らせば、日本周辺では台湾や今後の中国のようにもっと多くの変数が顕在化する可能性がある。こういった現実に照らして、日本は核や防衛費GDP比2%の議論などをもっと真剣に考えていく必要がある。


<PROFILE>
和田 大樹
(わだ・だいじゅ)
清和大学講師、岐阜女子大学特別研究員のほか、都内コンサルティング会社でアドバイザーを務める。専門分野は国際安全保障論、国際テロリズム論、企業の安全保障、地政学リスクなど。共著に『2021年パワーポリティクスの時代―日本の外交・安全保障をどう動かすか』、『2020年生き残りの戦略―世界はこう動く』、『技術が変える戦争と平和』、『テロ、誘拐、脅迫 海外リスクの実態と対策』など。所属学会に国際安全保障学会、日本防衛学会など。詳しい研究プロフィールはこちら

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