2024年09月15日( 日 )

技能実習生暴行問題、岡山の監理団体に行政処分

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 ベトナム人技能実習生の男性が実習先の従業員から繰り返し暴行を受けて、けがをした問題で、法務省と厚生労働省は、5月31日付で岡山市の監理団体「岡山産業技術協同組合」の許可を取り消した。

岡山市の暴行事案

 関係者によると、ベトナム人技能実習生の男性は、2019年10月に来日、岡山産業技術協同組合を通じ、受け入れ企業の建設会社で働き始めたところ、1カ月が過ぎたころから日本人従業員から暴行を受け始め、発覚するまでの約2年間で次第に暴行がエスカレートしていったという。

 男性は複数の従業員から棒で顔や脚などを数十回たたかれたり、安全靴で胸を蹴られて肋骨3本を折られたりした。また足を鋭利な工具で刺される、足場の部品を落とされて、それが顔に当たって歯が折れて、唇を4針縫うなどの被害を受けている。

 男性は監理団体に対し、「この実習先では実習計画に沿った正しい就労が困難なので、違う会社に変えてもらいたい」と訴えたが、十分な対応をしてもらえなかった。

許可を取り消された監理団体一覧

 法務省と厚生労働省は令和4年5月31日付で、以下の監理団体の許可取消しを通知した。

監理団体名 :岡山産業技術協同組合
代表者職氏名:代表理事 宮本誠一
所 在 地 :岡山市中区湊296-3
処分理由  :傘下の実習実施者に対する監査を監理責任者の指揮の下に適切に実施していなかったこと、監査の終了後遅滞なく、監査報告書を外国人技能実習機構に提出していなかったこと、技能実習生からの相談に適切に応じるとともに、実習実施者および技能実習生への必要な措置を講じていなかったことから、技能実習法第37条第1項第1号(同法第25条第1項第2号)および第4号(同法第41条)に規定する監理団体の許可の取消事由に該当するため。

監理団体名 :たいよう協同組合
代表者職氏名:代表理事 林 良秋
所 在 地 :群馬県前橋市荒牧町1-49-12
処分理由  :監理事業に関し手数料を受け取ったこと、主務大臣の許可を受けていないにも関わらず、監理事業を行ったことから、技能実習法第23条第1項の許可の申請の日前5年以内に出入国または労働に関する法令に関し不正または著しく不当な行為を行ったものと認められること、外部監査人による役員の監理事業に係る職務の執行の監査を行っていないこと、および出入国または労働に関する法令の規定に違反する事実を隠蔽する目的で、外国人技能実習機構の監査に際し、同機構の職員に対し虚偽の帳簿書類を提示したことから同法第37条第1項第1号(同法第26条第4号・同法第23条第1項)および第4号(同法第28条第1項)の規定する許可の取消事由に該当するため。

改善命令を受けた監理団体一覧

 法務省と厚生労働省は令和4年5月31日付で、以下に改善命令を通知した。

監理団体名 :MPW協同組合
代表者職氏名:代表理事 王 歓歓

監理団体名 :協同組合創造
代表者職氏名:代表理事 福井 淳一

監理団体名 :中部クリエイト事業協同組合
代表者職氏名:代表理事 近藤 義男

監理団体名 :東毛テクノ開発協同組合
代表者職氏名:代表理事 阿部 員可

技能実習計画の認定取消し企業一覧

 出入国在留管理庁と厚生労働省は令和4年5月31日付で、以下の企業等に対して技能実習計画の認定取消しを通知した。

実習実施者名:葵護謨工業(株)
代表者職氏名:代表取締役 天野 繁久

実習実施者名:(株)ASK Trust
代表者職氏名:代表取締役 浅香 喬之

実習実施者名:(株)S・H工業
代表者職氏名:代表取締役 佐々木 強

実習実施者名:内野 秀和
代表者職氏名:内野 秀和

実習実施者名:越智 晃
代表者職氏名:越智 晃

実習実施者名:大洞印刷(株)
代表者職氏名:代表取締役 大洞 正和

実習実施者名:(有)カケエ
代表者職氏名:代表取締役 掛江 邦彦

実習実施者名:(有)美里工芸
代表者職氏名:代表取締役 油井 真理子

実習実施者名:(株)ステップ・ワン
代表者職氏名:代表取締役 加藤 信昭

実習実施者名:中野水産加工(株)
代表者職氏名:代表取締役 中野 竜太

実習実施者名:服部製紙(株)
代表者職氏名:代表取締役 服部 正和、代表取締役 矢野 雅司

実習実施者名:(株)ハルミフーズ
代表者職氏名:代表取締役 新保 晴巳

実習実施者名:(株)勝山商店
代表者職氏名:代表取締役 勝山 龍子

監理団体の許可取消状況

 実習生を受け入れ企業に送り出し、監理する協同組合(監理団体)は、2022年4月現在、全国で約3,500団体あるが、これまでに適切な実習を指導せず、受け入れ企業の正しい監理をしなかったなどの理由で33団体が許可を取り消されている。しかし、岡山産業技術協同組合のような暴行事案に適正な対応をしなかったとの理由で取り消されたのは異例のようだ。

政府の見解

 古川禎久法務大臣は記者会見で、「決して有ってはならないこと。今後とも技能実習生の保護を最優先としながら実習実施者などに厳格な対応をする。監理団体が適正に機能せず技能実習生に対する暴行や暴言を繰り返す、極めて悪質な人権侵害事案が発生したことに対して、制度そのものに内在する重大な問題だと認識しているので、この制度の適正な実施を徹底する」と語っている。

監理団体の監理費と企業との関係

 監理団体は技能実習生の受け入れ企業から、毎月、監理費の支払いを受けており、技能実習生1人につき2万5,000円~3万8,000円の高額な監理費を受け取っている。1つの監理団体が企業に技能実習生を受け入れてもらうと、在留期間の少なくとも3~5年間は同企業から支払いを受けることができる。

 100人の技能実習生が企業で働いている場合、単純計算で1年間に3,000万円~4,560万円、5年間では1億5,000万円~2億2,800万円受け取れる。しかし、監理団体はあくまでも非営利団体なのである。

 コロナ禍により技能実習生が入国できなかった。仮に今後2~3年、新規で技能実習生が入国できなくても、受け入れ企業が倒産しない限り、監理団体が資金繰りに困ることはない。複数の監理団体の代表は口をそろえて「監理団体事業はやめられない、‟おいしい仕事“ですよ」と語る。確かに、それは否定できない。監理団体は、これだけの支払いをしてくれる受け入れ企業に対し、厳格な対応を取れるのだろうかと疑問を感じざるを得ない。

【岡本 弘一】

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