2024年09月15日( 日 )

持続可能性を求めて~JR肥薩線復旧の行方(中)

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 九州の被災した鉄道復旧で「上下分離」が持ち上がったのは、肥薩線が初めてではない。JR九州が5月27日、『BRTひこぼしライン』として23年夏に再出発すると発表したJR日田彦山線がそうだ。

 日田彦山線は、路線距離68.7kmで日豊本線城野駅(北九州市)と久大線夜明駅(大分県日田市)を南北に結ぶ。遠賀川水系の彦山川沿いを走る添田駅(福岡県添田町)以南の29.2kmが、2017年7月の2日間にわたる集中豪雨により60カ所以上被災、不通になった。

 この年5月、JR九州は初めて2016年度の路線・区間別の輸送密度(1日1kmあたり平均通過人員)を公表。同線の田川後藤寺駅(福岡県田川市)以北は小倉方面への通勤・通学需要で2,595人/日、同駅以南は299人/日。不通区間は後者に含まれた。

 18年4月から5月にかけて、JR九州、福岡県、大分県、添田町、東峰村、日田市のトップでつくる「日田彦山線復旧会議」と事務レベルの検討会を設置、鉄道存続を前提に再開後の鉄道運行の継続性確保について協議に入った。

 概算復旧費は、JR九州の当初試算で70億円。福岡県と大分県の災害復旧工事との事業連携で、同社の負担は56億円に減額。鉄道軌道整備法に基づく災害復旧制度の活用によって同社負担は28億円、さらに「上下分離」の採用で同社負担は復旧費の3分の1で済むことが分かった。

 ただJR九州は「復旧に公費を使って、鉄道の持続性を確保できないのなら、税金の無駄遣いになる」(当時の青柳俊彦社長)と主張。復旧費のほか、鉄道再開後に毎年発生する運行費の赤字補てんを求めた。同整備法の適用で鉄道復旧に公費を投入した場合、10年以上の路線維持が求められる。

 復旧費に加えて毎年の運行費補助。地元自治体の足並みは乱れた。被災から3年後、14.1kmはBRTに衣替え、残る15.1kmは一般道を走るバスへの転換で決着した。BRTはバス高速輸送システムと呼ばれ、線路跡に整備されるバス専用道。鉄道復旧を最後まで譲らなかった東峰村に配慮して、JR九州はBRT区間を当初計画より6.2km延ばした。

2017年7月の北部九州豪雨で運休が続く
JR日田彦山線の一部は
BRT(バス高速輸送システム)を組み込んだ
『BRTひこぼしライン』として23年夏に再出発する。
=JR九州のプレスリリースを加工、修正

 肥薩線は、国、JR九州、熊本県が同じテーブルに着いたばかり。最終判断をくだすJR九州は「私どもの復旧費の負担が38億円、復旧後に上下分離すると25億円と分かったにすぎない」(広報部)と話す。
 同社によると、不通区間のうち八代-人吉51.8kmの輸送密度は、コロナ禍前の2019年度で414人/日、人吉-吉松35kmは106人/日。日田彦山線田川後藤寺駅以南に比べると、八代-人吉間で上回るが、人吉-吉松間はおよばない。

 その分、鉄道運行で発生した19年度の赤字額は八代-人吉6億2,100万円、人吉-吉松2億7,000万円。どちらの区間の赤字額も田川後藤寺駅以南のそれを上回る。仮に鉄道軌道整備法を適用して八代-吉松を再開した場合、10年間で100億円前後の運行赤字が見込まれるという。

 株式を上場している同社の経営陣は、安易な鉄道再開によって株主から経営責任を問われる可能性もある。復旧について、同社の古宮洋二社長が「復旧費もさることながら、(再開後の)ランニングコストも考えなければならない」と強調するゆえんだ。

 これに対し熊本、宮崎、鹿児島3県と沿線16市町村は、被災前に観光振興目的で立ち上げていた「肥薩線利用促進・魅力発信協議会」(会長・松岡隼人人吉市長)が官民連携での鉄道復旧で一致。当面は、被災が大きい熊本県の沿線4市町村など12市町村と県でつくる「JR肥薩線再生協議会」(会長・田嶋徹副知事)が主導して、「災害からの創造的復興モデルとして国が採用できる復旧の方向性を打ち出す」(蒲島郁夫熊本県知事)と意気込む。

東日本大震災後、JR大船渡線とJR気仙沼線の
一部区間はBRTで復旧した。
写真はBRT(左)と鉄道が同じホームに乗り入れる
岩手県大船渡市の盛(さかり)駅。
=JR東日本のホームページから抜粋

(つづく)

【南里 秀之】

(前)
(後)

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