基本理念を再徹底、時代の変化に適応し前進を続ける（前）

（株）ウチヤマホールディングス
代表取締役社長　山本 武博 氏

介護業界が抱える課題解決のために

　──現在、日本の高齢者数は3,600万人超となり、介護の需要がますます高まると思われます。今後の取り組みについてお聞かせください。 

　山本武博氏（以下、山本）　高齢者の数は今後も増え続けていきますので、それにともない、介護需要も増え続けていくことでしょう。しかし、供給量（介護事業所数）がこれまでのように必要に応じて増えていくかどうかは不透明なところもあります。その理由の1つとして、この業界には小規模事業者が多く、それぞれが独立採算であり、職員の定着率が低いという業界共通の課題がある一方で、人材採用に関しては苦労しており、そのコストが大きな負担となっています。そのため新たな設備投資が十分にできず、職場環境の改善やオペレーションの効率化などを図りにくくなっています。とくに労働者人口の少ない地域にある介護事業所などは運営コストが割高になりがちで、安定的に収益を上げることが非常に難しいという現実があり、そうした事業所は全国に多数あります。地域によっては、介護事業所が増えるどころか、減少していくリスクすらある状態です。このような施設が活用できなくなることによる地域の損失は、非常に大きなものになると思われます。 

　そうした地域が抱える問題の解決につながるのではないかと考え、当社は今年3月にSOMPOホールディングス（株）と介護領域のリアルデータを利用した協業をスタートしました。 

    当社では2017年から九州工業大学などとの産学官連携により、介護職員のオペレーション向上による介護の質向上をテーマに研究してきました。その結果、スマートフォンと行動センサーを組み合わせたアプリが完成し、これまで手書きで記録していた書類が、スマートフォンやタブレットで入力できるようになりました。書類によっては複数の様式に同じ内容の記録を記入する必要もあり、職員にとっては大きな負担でした。それをスマホで入力してクラウドで共有することで、それぞれの書類に入力する手間を省くことができますし、職員間の情報共有もそこで行えます。また、AIが入居者さまの行動パターンも踏まえて必要な業務の予測を行うので、職員はそこに加筆・修正することで作業時間を大幅に減らすことも可能です。業務効率化によって生まれた時間を、入居者の方々に直接対応する時間に充てられるため、介護サービスの質向上にも寄与することでしょう。 

　このアプリを導入した当社の介護施設では、記録業務の大幅な削減に成功し、現在は全国16の施設で稼働しています。今年3月に横浜市に新規開設した当社の有料老人ホームでは、最初からこのアプリを導入しています。今後、新規開設する施設についても初期段階から導入し、既存施設についても随時導入を進めていく予定です。このシステムがもつリアルデータを、SOMPOグループが構築している介護施設向けの情報プラットフォームに集約・解析することで、将来的には全国の介護事業者が安価にシステムやデータを取得し、自施設で効率的で的確な介護サービスを提供できるようになるとともに、職員の業務負担も低減し雇用が安定していくなど、介護業界全体の業務効率化が図れるようになることを期待しています。

（つづく）

【文・構成：新貝　竜也】

＜COMPANY INFORMATION＞
代　表：山本　武博
所在地：北九州市小倉北区熊本2-10-10
設　立：2006年10月
資本金：22億2,293万5,560円
売上高：（22/3連結）249億5,800万円
ＵＲＬ：http://www.uchiyama-gr.jp/

＜PROFILE＞
山本　武博 （やまもと・たけひろ） 
1971年生まれ、山口県出身。北九州大学（現・北九州市立大学）卒後、94年に㈲サイトウ（現・（株）ボナー）入社。ボナー専務、（株）ウチヤマホールディングス代表取締役専務、（株）さわやか倶楽部代表取締役専務などを経て、2021年4月にウチヤマホールディングスとさわやか倶楽部の代表取締役社長に就任。