【注目】“大きな嘘”を暴くメディアに 独立言論フォーラム
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4月1日に始まったネットメディア「ISF」(独立言論フォーラム)。広告に頼らない市民メディアを目指し、忖度(そんたく)まみれの既存マスメディアに対するアンチテーゼとしての役割も自認する。代表理事の一人で編集長でもある木村朗氏に、設立経緯を聞いた。
東京と沖縄を結ぶ新しいネットメディア
──新しいメディア「ISF」をスタートさせた経緯は。
木村朗(以下、木村) 新しいインターネットメディアをつくろうというアイデアは2年以上前から親しい仲間の勉強会のなかで出ていました。ちょうどコロナ禍と重なったこともあってこの間なかなか具体的に動けませんでしたが、ようやく昨秋くらいに具体化し始め、今年4月1日、予定通りに「独立言論フォーラム」(ISF)を何とか無事にスタートさせることができました。
この新しいインターネットメディアと先行して、昨年10月22日には「一般社団法人 独立言論フォーラム」を設立しています。フォーラムはIT企業を経営する岡田元治さんと私が代表理事で、「村山首相談話を継承し発展させる会」の藤田高景さん、前田朗・東京造形大学名誉教授、沖縄市民連絡会共同世話人の宮城恵美子さん、元名桜大学の与那覇恵子さん、の6人が理事になっています。ISFは、この法人が運営するインターネットメディアという位置付けです。
新たなインターネットメディアが必要だと考える背景には、現代日本社会の閉塞状況があります。より実態に即して言うならば、政治の劣化・機能不全であり、これは既存メディアと司法の劣化・機能不全と同根だと思います。大手主要メディアが言論機関としてはたすべき役割、つまり「権力の監視・批判」という役割を放棄しています。そればかりか、むしろ政府や大企業の側に立って情報を操作して誤った情報を拡散しており、このことで権力者側に「不都合」な真実が我々に届かず、その結果、市民が「大きな嘘」を思考停止のまま鵜呑みにしている状況が生まれています。現在はまさに、ジョージ・オーウェルが『1984年』で描いた「狂気の、倒錯した社会・世界」になりつつあるといえます。そうしたファシズム的状況を少しでも変えたいというのが、ISFの目指すところです。
原稿執筆や動画出演については可能な限りボランティアでお願いしています。現時点では会費制はとらず、支援と寄付をお願いしたうえで、寄付していただいた方にはサポーターとして登録させていただいています。またサポーターになっていただいた方々にはISF通信をお送りすることと、ISFが主催・共催する講演会やシンポジウムに無料で参加できるなど、特典を増やしていきたいと考えています。
新しいインターネットメディアを始めるにあたっては広告にいっさい頼らない、「市民による独立メディア」というスタンスを決めました。ISFでは動画と記事の配信を行いますが、最も大きな特長は拠点を東京と沖縄の2カ所に置いていることです。沖縄ではISFに先行して今年1月からラジオの「FMぎのわん」で週に1度、「沖縄平和トーキングラジオ~南から風を」を私と宮城さん、与那覇さんの3人で担当しています。当初は30分枠で始まり、2月からは1時間枠(毎週金曜日の午前10時から)に拡大しました。放送は動画としてYouTubeでも配信されますので、それをさらにISFで再編集してホームページ(ISF独立言論フォーラム)にアップします。動画には鳩山元首相をはじめ、映像作家・監督の森達也さん、ジャーナリストの望月衣塑子さんなどにも出演していただいていますので、見ごたえのあるものになると思います。
「不都合な真実」を報じない既存マスメディア
──メディアの機能不全とは?
木村 安倍(晋三)元首相から菅(義偉)前首相までに起こったさまざまな問題、森友・加計学園、桜を見る会、学術会議の問題から、現在ではウクライナ危機の報道姿勢など、大手メディアの報道姿勢には疑問符が付くものが多くあります。さらに新型コロナウイルスをめぐる報道においても、伝えるべき事実や真実とはかけ離れた報道がなされているというのが我々の基本認識です。
──それは、朝日新聞に代表される「左派・リベラル」メディアも含めてという認識でしょうか。
木村 そうですね。日本の報道自由度ランキングは、先進国でありながら「71位」(国境なき記者団調べ)に低迷しています。鳩山政権時代(2009~2010年)には12位でしたから、この12年間でどれだけ報道現場の劣化が進んだのかがよくわかると思います。記者会見でジャーナリストが聞くべきことを聞かない、追及すべきことをせず、おかしいことにおかしいと言わないという異常事態が続き、私たちの感覚も麻痺してしまいました。既存のジャーナリストのなかにはまだ魂を持った方がいらっしゃるものの、組織としてみれば完全に機能不全に陥っています。これは国民の右傾化や保守化に合わせて左派やリベラル系メディアも両論併記が普通になり、新聞の部数が減るなかで大衆や権力に迎合することが続いた結果ではないかと考えています。不都合な真実を暴き、伝える、そのこともISFの使命です。
──不都合な真実とは。
木村 権力者や彼らと利益を共にしている層にとって都合の悪い事実が隠ぺいされています。公文書の隠ぺいや偽造、さらに大企業の犯罪やスキャンダルが追及されない現状が目に余ります。ISFではコンテンツの大きな柱としてメディア批評と並んで事件記事の検証報道も掲載します。たとえば今市事件という冤罪事件の追及、小沢事件やロッキード事件、志布志事件や大崎事件など、現在進行形の事件だけでなく過去の事件についても取り上げて検証していきたいと思います。
アメリカは日本を守らない~米中対立の代理戦争として沖縄が最前線に
──市民による独立メディアはすでに存在します。差別化をどうはかるのか。
木村 ISFの理念に賛同していただいている他のソーシャルメディアもありますので、共同歩調をとることができれば有り難いですね。ISFは他メディアと比べて沖縄問題にかなり比重を置いています。FMぎのわんラジオとの連携も含めて、沖縄の声を重点的に発信していきます。もう少し体制が整えば、韓国の「OhmyNews」のように読者からの投稿受け入れも検討すべき課題になると考えています。
──ロシアのウクライナ侵攻が始まって以降、沖縄の基地が「必要だ」という声も目立つ。
木村 ウクライナ危機を受けて東アジアも戦争前夜にあるかのような報道がされて、政府与党と大手メディアが一体となって危機感を煽っている状況です。しかし、専門家の一部は台湾有事について「むしろ遠ざかった」という認識を強めています。それには2つの理由があって、1つはロシアのウクライナ侵攻についての国際社会の対応(ロシアへの経済制裁とウクライナへの武器支援)を受けて中国が慎重になったということ、もう1つはアメリカ自身もロシアと中国の二正面作戦をする余裕がないということです。
その一方では、中国を挑発する動きとして東アジアで軍事演習を行ったり、最近の動きでは「Quad」(クアッド)というアメリカ、日本、オーストラリア、インドの戦略的同盟の動きが活発になり、さらには日本がNATO(北大西洋条約機構)と連携するかたちすら表面化しつつあります。岸田さんがNATO首脳会議に日本の首相として初めて出席することになりました。こういったアジア版NATOやグローバル安保体制を構築しようとする動きは非常に危ういものです。抑止力を強化して戦争に備えるという部分だけがクローズアップされ、外交的努力によって戦争を回避して平和を構築するという重要な理念・役割を置き忘れています。
さらに、敵基地攻撃能力に対する議論が「反撃能力」というごまかしの理屈で進行し、憲法違反の先制攻撃につながる動きが強まっています。さらにこの苦しい財政状況下で軍事費を5年間で2倍、GDP2%までもっていく方針が政府与党によって打ち出されています。アメリカの一部からは5年では遅すぎるという圧力まであります。こうした動きのなかで安倍元首相による「台湾有事は日本有事」であるとか「核の共有」という、とんでもない発言まで飛び出しています。
核の問題がより重大なのは、鳩山元首相が指摘しているように、ウクライナ危機はウクライナとロシアの戦いというよりは、アメリカとロシア、あるいは「アメリカ+NATO」とロシアとの戦いとして大国間の代理戦争になっているということです。東アジアでは米中対立に日本が巻き込まれるかたちで代理戦争になると、米中ではなく日中が戦うかたちで軍事紛争が勃発して、最悪の場合は日本がウクライナのような戦場になる可能性があります。とりわけ沖縄が戦場になる可能性が最も高く、そうした状況のなかでアメリカが本格的に中国と戦うことはないでしょう。むしろ沖縄の米軍基地から米軍をハワイまで撤退させる計画すらあると言われています。日本や日本人を犠牲にしながら戦う最悪のかたちもあり得るということで、私たち国民は早くそこに気づくことが必要です。参院選もあり改憲も迫っているなかで緊急性は高いと思います。
軍事同盟から集団的安全保障へ
──平和学がご専門です。現在の世界情勢をどう評価しますか。
木村 冷戦終結後、いったんは核軍縮も含めてある程度は軍縮が進みましたが、これはつかの間の平和であって、その後にソマリア、湾岸戦争、ユーゴ紛争、そして2001年の9.11以降はアフガ二スタン、イラク、リビア、シリアと続き、ロシア関連ではジョージア、そして今回のウクライナと続いてきているわけです。
冷戦終結時にワルシャワ条約機構もソ連も消滅しわけですから、本来であればそれに対抗するための軍事同盟であるNATOも日米安保も解体すべきだったと思います。国連憲章に集団的自衛権が盛り込まれていることでNATOを正当化する向きもありますが、これは国連が関与するまでの短期間の関与を想定したもので、恒常的軍事同盟を認めたものではありません。
よく誤解されますが、集団的自衛権に基づく軍事同盟と、国連やEU、あるいは鳩山元総理が提唱している東アジア共同体のような集団的安全保障機構とはまったく似て非なる考え方です。仮想敵国を自分たちのブロックの外において戦争の準備をするのが軍事同盟ですが、集団的安全保障はすべてを枠内に入れて、たとえばアメリアもロシアも入れてそのなかで平和を構築するという発想です。世界はその方向に向かうべきであり、日本は平和憲法と世界の理想のさきがけとして9条をもっていますので、安保法制などでかなり形骸化されつつあるとはいえこれを絶対に変えるべきではありません。
沖縄の基地問題にしても、77年間の長期間にわたって外国の軍隊が駐留しているということ自体が異常なことであることにまず国民が気づかなければなりません。あと23年経てば100年です。この状態をこのまま200年、300年と続けていくのか。これではまさに米国の植民地であり、永遠に米軍に占領されることを許していいのか、これがいま日本に問われていることだと思います。鳩山元総理の「日本人よ目を覚ませ!」はそのことを率直に提起しています。
<プロフィール>
木村 朗(きむら・あきら)
1954年生まれ。北九州市出身。北九州工業高等専門学校を中退後、県立小倉高校を卒業。九州大学法学部を経て九州大学大学院法学研究科へ進学。博士課程在籍中に交換留学生としてベオグラード大学政治学部留学。九州大学法学部助手、1988年に鹿児島大学法文学部助教授。1997年に同学部教授。専門は平和学。20年3月に鹿児島大学を退職。現在、鹿児島大学名誉教授(平和学・国際関係論専攻)。東アジア共同体・沖縄(琉球)研究会共同代表。国際アジア共同体学会理事長、東亜歴史文化学会副会長、日本平和学会理事。元九州平和教育研究協議会会長。法人名
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