2024年12月22日( 日 )

「アルカイダ」ザワヒリの殺害 国際テロ情勢の行方

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国際政治学者 和田 大樹

 8月になって大きなニュースが飛び込んできた。バイデン米大統領は1日、2001年9月の米同時多発テロ事件を首謀した国際テロ組織アルカイダの現指導者アイマン・ザワヒリ容疑者(テロ事件当時は副官だった)を、7月31日にアフガニスタンの首都カブール周辺でドローンによって殺害したと発表した。ホワイトハウスによると、米軍は今年初めからカブールの高級住宅街の民家にザワヒリ容疑者が家族とともにいることを確認し、居場所を特定していたという。米軍はドローンによる攻撃計画を7月になってバイデン大統領に報告し、同大統領は25日に作戦決行を承認したという。

 ザワヒリ容疑者はエジプト・カイロ出身で、カイロ大学医学部に進む一方、イスラム原理主義に傾斜し、パキスタンで貧しい人々への医学治療に従事していた際にアルカイダの指導者ウサマ・ビン・ラディンと知り合い、アルカイダの創設に貢献した。そして、2011年5月にパキスタン・アボダバードでウサマ・ビン・ラディンが殺害されて以降、今日までアルカイダのリーダーの座にいた。長年指導者の立場にあったザワヒリ容疑者の殺害は、アルカイダにどのような影響を与え、今後世界的なテロ情勢はどうなっていくのだろうか。

テロ イメージ    まず、ザワヒリ容疑者が殺害されたとしても、アフガニスタンではタリバンとの強いパイプのもと、数百人レベルのアルカイダ戦闘員たちが依然として活動しており、今後短い期間で後継者が発表される可能性が高い。ザワヒリ容疑者は10年以上アルカイダのトップだったわけだが、ウサマ・ビン・ラディンほどカリスマ性があったわけではなく、長年そのカリスマ性の欠如が問題視されてきた。近年では後継者論が内外で叫ばれており、アルカイダ内部でそれなりに激震が走ったとしても、組織の方向性が大きく変わることはない。

 また、9.11テロ以降、「アラビア半島のアルカイダ」「イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ」、ソマリアの「アルシャバブ」というように、アルカイダを支持する地域組織が各地で活動していることからも、ザワヒリ容疑者の殺害によってアルカイダの世界的なネットワークが消え去ることもない。こういった組織はアルカイダ本体とはインターネット上で意思疎通を図っており、その言動によって刺激を受けることはあるが、実際の活動は独自の方針で行っており、ザワヒリ容疑者の殺害による影響はほぼないといえる。

 しかし、今後もアルカイダが存続するとしても、アルカイダが再び9.11レベルのテロを実行できるかといえばこれは不可能に近いだろう。国連安保理テロ監視チームなど筆者周辺のテロ研究者の間では、現時点でアフガニスタンのアルカイダに大規模な国際テロを実行できる能力はなく、そういった意思も明確ではないというのが現状だ。また、アルカイダの地域支部も各地でテロ活動を継続しているものの、あくまでも地域レベルの活動にほぼ限定されており、国際社会を震撼させるようなテロの可能性は低い。

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 しかし、9.11同時多発テロ以降、インドやインドネシア、イラクやシリア、スリランカやバングラデシュなどでアルカイダ系、もしくはイスラム国(IS)系のイスラム過激派によるテロで邦人の犠牲が断続的に続いている。また、国際社会が緊迫する米中関係やロシアによるウクライナ侵攻など国家間の対立に集中し過ぎるあまり、こういったテロの問題への取り組みをおろそかにするならば、アルカイダなどのテロ組織が再び勢力を拡大させる可能性は高い。海外に進出する日本企業としては、差し迫ったテロの脅威はないにしても、潜在的なリスクは続いていることから、今回のザワヒリ容疑者殺害を機に改めてテロ対策を見直すべきだろう。


<プロフィール>
和田 大樹
(わだ・だいじゅ)
清和大学講師、岐阜女子大学特別研究員のほか、都内コンサルティング会社でアドバイザーを務める。専門分野は国際安全保障論、国際テロリズム論、企業の安全保障、地政学リスクなど。共著に『2021年パワーポリティクスの時代―日本の外交・安全保障をどう動かすか』、『2020年生き残りの戦略―世界はこう動く』、『技術が変える戦争と平和』、『テロ、誘拐、脅迫 海外リスクの実態と対策』など。所属学会に国際安全保障学会、日本防衛学会など。
▼詳しい研究プロフィールはこちら
和田 大樹 (Daiju Wada) - マイポータル - researchmap

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