2024年11月24日( 日 )

ローカル線の存廃に関する協議会(3)

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運輸評論家 堀内 重人

「交通税の導入」

 ローカル線は、以前から過疎化やモータリゼーションの進展などの問題を抱えていたが、コロナ禍により、その抱えていた問題が10年程度、先送りとなってしまった。

 JR北海道、JR四国は、とくに経営状況が厳しく、公的関与を強めなければならない状況にある。JR九州は、鉄道事業は赤字であったが、マンションの分譲など、不動産事業が好調なため、鉄道事業の損失を内部補助していた。

 だが、コロナ禍で鉄道事業の赤字額が膨らみ、内部補助がやりにくい経営環境に陥っている。JR東日本には、「首都圏」というドル箱エリアがあるが、東北地方に多くの不採算なローカル線を抱える。

 一方のJR西日本は、本州3社のなかでは最も経営基盤が弱く、コロナ前は黒字経営を維持していたが、JR東日本やJR東海ほど、利益が出る会社ではない上、中国地方に多くの不採算なローカル線を抱える。

 JR東日本・JR西日本も、コロナ後もテレワークが普及したことなどもあり、以前の水準に旅客数が戻らないと考えており、経営状況の悪い線区の状況を公表するようになった。

 そんな中、滋賀県の三日月大造知事が、「交通税の導入」を提案している。滋賀県では、近江鉄道(写真4)という西武鉄道系の民鉄が慢性的な赤字経営に陥っているだけでなく、路線バスの多くが赤字経営であるため、「交通税」を導入して、近江鉄道だけでなく、路線バスも維持する考えである。そして近江鉄道に関しては、2024年度に「公有民営」の上下分離経営を導入することが決定している。

近江鉄道(写真4)
写真4(近江鉄道)
信楽高原鐵道(写真5)
写真5(信楽高原鐵道)

    滋賀県では、すでに第三セクター鉄道の信楽高原鐵道(写真5)が、「公有民営」の上下分離経営を導入しており、収支が均衡する水準から若干の黒字になっている。

 信楽高原鐵道では、上下分離経営を実施しただけでは、利用者が増えないため、駅舎に駐輪場の整備を進めるとともに、企画乗車券や記念乗車券類を発売して、増客と増収を図るための努力をしている。

 近江鉄道も、増収を図るため、「ビール電車」「ワイン電車」「地酒電車」などのイベント電車を運行するほか、昼間や休日は車内への自転車の持ち込みを認めるなど、増収と利用者を増やす努力を行っており、上下分離経営が実施された暁には、インフラの維持管理から解放されるため、さらなるサービス向上が期待できる。

 筆者自身、ローカル鉄道や路線バスの経営状況が厳しいため、「交通税」を導入して存続・活性化させることには賛成である。

 だが「交通税」を導入するとなれば、その「財源」が不可欠であるが、それがいまだに決まっていない。

 筆者は、滋賀県の山林が荒れ果てており、集中豪雨があると土砂崩れが発生して、住宅倒壊や道路損傷などの被害を出すため、「森林税」を導入して山林の間伐を実施する。それと同時に、そこで得られた税収の一部を、公共交通の存続とサービス向上に転用する方法や、県庁や各自治体、公共施設の駐車場を有料化して、そこで得られた収入の活用も考えている。

 その他の財源として、ガソリン1Lあたり1円、軽油1Lあたり0.75円を課税して、交通税の財源にする方法もあると考える。

 つまり自家用車が公共交通の利用者を奪っているだけでなく、慢性的な道路交通渋滞を発生させるだけでなく、交通事故も発生させており、自家用車へ課金することで、自家用車から公共交通へのモーダルシフトが実現する。

 「森林税」に関しては、過疎地などでは公共交通の経営状況が悪いことから、「森林税」を導入すれば、都市部から過疎地・僻地へ人口の移動が生じ、過疎地の公共交通の利用者減に歯止めがかかると同時に、「国土の保全」にもつながる。

 ガソリン・軽油への課税であるが、滋賀県は四方を山で囲まれているため、ガソリンや軽油に課税されたとしても、他府県へ行って給油するケースは限られる。だが、平坦地が続く、埼玉県、群馬県、栃木県、茨城県、千葉県では、他の都県へ出掛けて給油することも考えられるため、ガソリンスタンドからの反発は必至である。

 「交通税」は地方税になるため、滋賀県の事例を真似する必要性はなく、各都道府県に適した課税方法を模索すれば良いだろう。

(つづく)

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