ローカル線の存廃に関する協議会(4)
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運輸評論家 堀内 重人
新たな収入源の創出
ローカル線を、運賃・料金収入だけで維持することは、非常に困難である。今後は、前回述べた「交通税」を導入して、ローカル線などの地域公共交通を維持する必要があるが、税金を投入するとなれば、鉄道事業者などの経営努力がなければ、納税者からの理解が得られない点も無視できない。
そうなると鉄道事業者なども、運賃・料金以外の新たな収入源を確保しなければならない。その点でいえば、第三セクター鉄道のほうが、より経営環境が厳しいことから、「ネーミングライツ」や「枕木オーナー制」「つり革オーナー制」を導入する以外に、関連事業として物販事業を実施するなどして、「コインの商売から、札の商売」への転換を模索していたりする。
「ネーミングライツ」(写真6)は、駅名などに別の企業名などを入れて、新たな収入源を確保する方法である。「枕木オーナー制」「つり革オーナー制」は、「枕木」や「つり革」を購入してもらい、それぞれに購入者の名前が入ったプレートなどを取り付けるかたちで、新たな収入源を模索する方法である。「つり革オーナー制」は、鉄道だけでなく、路線バス事業者でも適用できる施策である。
千葉県を通るいすみ鉄道は、「ネーミングライツ」を実施する以外に、物販事業に力を入れ、増収を図る努力を行っている。
このような取り組みは、JRではほとんど実施されていない。今後はコロナ前の需要に戻らないことが予想されるため、「ネーミングライツ」などの新たな収入源の確保は、不可欠になるといえる。
それ以外に、「サポーター制」の導入が挙げられる。「交通税」を徴収して、地域公共交通を支えることや、鉄道事業者などが「ネーミングライツ」や「枕木オーナー制」「つり革オーナー制」、物販事業などを導入して、運賃・料金以外の新たな収入源を確保することなども重要であるが、「サポーター制」を導入して、ローカル線などの地域公共交通に出資してもらう方法もある。
福井県を通る第三セクター鉄道のえちぜん鉄道は、サポーターを導入して新たな収入源を確保する試みが実施されている。
ほとんど増収に貢献しないかもしれないが、駅舎などを貸してリース料を得る方法もある。乗降客数が少ない駅であっても、幹線道路に面している駅であれば、食堂などのテナントを誘致することが可能である。また駅舎を託児所として活用したり、簡易図書館として活用したりする方法もある。
駅舎に食堂や託児所、簡易図書館が入るとなれば、駅舎が荒れ果てたり、暴走族のたまり場になったりすることが回避されるだけでなく、「鉄道が存在する」ということを、地域住民に知ってもらうことにもつながる。
過疎地などでは、鉄道や路線バスが存在することすら知らない人が多く、最初から「自家用車」となっているのが現状である。
協議会の人選とDMVの可能性
国が主導で、「特定線区再構築協議会(仮称)」を発足させることが盛り込まれたことは、課題こそあるが従来と比較すれば、進歩したといえる。
ただ「特定線区再構築協議会(仮称)」を国が主導して設置したとしても、各自治体などには公共交通に明るい人材が乏しいのが現状である。各自治体に鉄道を含めた公共交通に明るい人材が不足する場合は、首都圏や関西圏など、他のエリアから専門家を招聘して、対応させる必要がある。また地元の利用者にも、メンバーとして加わってもらう必要がある。この場合は、老人会や身障者団体だけでなく、高校の校長先生や地元の警察、サポーターにも、メンバーとして加わってもらった方が良い。
そうしなければ、不採算路線を廃止したい鉄道事業者のペースで話が進み、存続・活性化させることが可能な路線まで、廃止されてしまう危険性が生じる。
そして有識者検討会では、平時の乗客が1日当たり50名未満の路線や区間は、バス転換も視野に入れるなど、厳しい見解も示されているが、こうなるとDMV(Dual Mode Vehicle)による鉄道存続も検討される可能性がある。
DMV(写真7)は、閑散路線の存続を目的にJR北海道が開発した、線路と道路の両方が走行できる車両であり、マイクロバスをベースに改造するかたちで試作車が完成した。
北海道内で試験走行を行ったところ、札沼線で積雪時に脱線する事故が発生するなど、寒冷地での使用が厳しいことが分かった。またDMVを営業運転するには、気動車の運転免許と、大型二種の免許が必要であり、乗務員の養成コストがかさんでしまう。JR北海道では、網走地区で試験的に営業運転を行っているが、定員が少なくなるため、少しまとまった乗車があれば、積み残しを出すという、致命的な欠点がある。またDMVは車体が軽いため、普通の気動車が運転される線区で導入すると、信号機や踏切が誤作動するため、DMVを運行することができない。さらにマイクロバスをベースに改造したため、後輪が線路の上に載り、運転台の前にあるボンネット部分から前輪が出て、案内と走行を行うため、乗り心地が悪いという欠点もある。
現在は、2021年12月25日から徳島県を通る第三セクター鉄道の阿佐海岸鉄道で営業運転を行っているが、ここは鉄道区間が全線で高架であると同時に、急勾配などもない線路状態である。そして沿線に高校などがなく、宍喰温泉や道の駅へ観光客を誘致するため、運行しているといえる。
もし急勾配がある路線に導入したとなれば、落葉時にスリップして勾配が上がれなくなるトラブルが生じる危険性も無視できない。
またDMVは、特殊車両であるから導入コストは、普通の路線バスよりも割高であるにも関わらず、車両の寿命は普通のバスと同じである。
寒冷地や高校生の通学需要が多い路線では使用できず、普通の気動車が運転される線区では、信号や踏切が誤作動するため、使用できないため、本当に閑散線区に限定される。そして乗務員の養成コストが高く、かつ特殊車両になるから車両の導入コストも高い。その反面、寿命は普通のバスと同じであるため、導入するとなれば、比較的温暖で沿線に高校などがない、末端の閑散区間だけになる。
候補になるのは、指宿枕崎線の指宿~枕崎間か、日南線の串間~志布志間になるかもしれない。
最後にコロナ禍も加わり、ローカル線の厳しさが増しており、1日当たりの輸送密度が1,000人以下のローカル線に関しては、問題点や課題はあるが、国が主導で「特定線区再構築協議会(仮称)」を創設する方向へ向かうようになったことは、1つの進歩である。
その基準として、「輸送密度」が基準となり、「営業係数」ではなかった点は、評価しなければならない。その「輸送密度」に関しても、鉄道事業者の経営努力により、利用者を増やすことが可能であり、利用者が増えれば、例え採算性では「負」であっても、便益では「正」になる可能性が高くなる。
「交通税」を導入して地域公共交通を支える考えには賛成であるが、納税者から納得してもらうには、利用者を増やして便益を「正」にした状態にすることが不可欠である。
今後は、鉄道事業者に何でも丸投げするのではなく、「公」や地域住民やサポーターなどの「共」も加わり、ローカル線を支える時代になったといえる。この考え方は、鉄道だけでなく、路線バスに関しても、同様である。
(了)
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