海外の新天地に日本のサービスを 日本料理店モンゴル出店の挑戦
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ユネスコ無形文化遺産にも登録されている和食。日本企業が進出する新興国においては主として駐在員の利用を想定して日本料理店が出店しているが、現地の富裕層・中間層が形成されるにともない、彼らも対象とした店舗も出店し、文化面での理解増進、円滑なビジネス遂行に寄与する。まだ日本料理店が少ない内陸国のモンゴルを新天地ととらえ、本物の日本料理店を出店しようと取り組む人たちがいる。彼らのモンゴル視察を同行取材した。
海外に本物の日本料理を
海外の日本料理店においては、しばしば本物の和食ではなく、いわば和風の、かつクオリティのともなわない料理が見られる。海外での飲食事業の経験をもつ中村龍道ZANN CORPORATION Chairmanは、海外の店舗で日本人経営者が留守にすると、現地のスタッフが勝手に料理にアレンジを加え、味付けはおろか甚だしくはメニュー自体を変えてしまうことも目撃したという。中村氏はスタッフの自己主張を必ずしも批判的にはとらえず、挑戦はよいことであるとしながらも、大事な料理の味付けやメニューの変更は誤った方向性の変化であるとする。
中村氏は和風の料理を見るたびに悔しく感じ、「和風ではなく和食を」という想いからモンゴルでの日本料理店出店を計画している。中村氏がモンゴルを選んだのは、同国に足を運ぶうちに、同国が現在新興国として急成長を遂げ、市民の消費能力が高まり本物志向を強めていることを肌で実感したからだ。「本物の日本料理を、日本のよいものをモンゴルの人に届けるとともに、本物の和食で日本料理のブランド力向上に寄与したい」と語る。
現地の有力な企業グループの代表には、日本食を食べることを主目的として日本に行く人もいるという。偶然だが、中村氏は日本で食を満喫して帰国する同代表と同じ成田発ウランバートル行きのフライトに乗り合わせたこともある。中村氏は、アジアの人は大金を得た後、ヨーロッパの人より「おいしいものを食べに行こう」という発想が強いという。現地の所得水準からみて、食材にこだわった本物の日本料理店は安いとはいえないが、一定のマーケットは間違いなく存在する。
成長を求め海外へ
そうした中村氏の想いに賛同したのが、海外の一流ホテルでの勤務経験もあるホテルマンの原氏と福岡の有名料理店の料理長などを歴任した藤元氏。両名とも、海外に出て一から事業を興し、ワクワクしたい、成長したいという想いを抱いており、モンゴルでの日本料理店出店の計画を練っていた中村氏と意気投合、それぞれ前職を辞め、モンゴルに単身飛び込む決意をした。
両名は、店にとって最も核心的な要素は料理の味であるとし、つくるためのプロセスは改善が必要であれば変更してもよいが、その店の看板となる料理やその味付けは変えてはいけないとその重要性を強調する。
藤元氏の目には、今の日本の料理人は、伝統と実績に胡坐をかいているように見えるという。たとえば、現在の日本の飲食業界では人手不足、人件費抑制などの理由から、料理の盛り付けなどを簡素化する傾向があり、これはいわば手抜きではないかと懸念する。料理には高い価値、オリジナルの価値が求められ、そのために料理人は研鑽を積むべきだという。しかし、このままでは、海外の料理人に抜かれてしまうと危惧する。
海外に行くことを敬遠する人は多い。海外では日本料理の食材が思うようには手に入らず、また現地の市民の嗜好も異なるうえ、日本では想定できないような問題が起こり得る。両名はそうした苦労を承知のうえで、海外では国内のような縛りがない分、かえってやりやすい要素もあると感じている。
現地との共存共栄を
海外での事業経験を豊富に有する中村氏は、「ものさしは人・地域によって異なる。自身のものさしで、相手を測ってはダメ」と語る。
日本の本物の味をそのまま再現するという点では一切妥協しない。そして、日本の食文化を体験してもらい、そして普及させたいと強く願う。料理そのものの付加価値を高めるために、いろいろなことを行うとしている。できるだけ、日本のものを用い、差別化を図る予定だ。
同国は日本よりはるか北、かつ高地(ウランバートル市の標高は1,350m)であるため、冬の寒さは非常に厳しく、娯楽の種類がまだ豊富でないことから、デリバリーやケータリングなどでの提供も考えている。食事は重要な選択肢の1つ。新興国で所得格差が大きいが、VIPを呼ぶためにも差別化、高級感を出す方針を固めている。富裕層が良客となり、さらに家族・友人を店に連れてきて良客となっていくサイクルをつくりたいとしている。
藤元氏は「よい料理人は人を育てるべき」という信条をもち、「やる気のあるモンゴル人の料理人を育てたい」と語る。実際にモンゴルに行き、モンゴル人の人柄に触れ、素直で真面目であり、団結心が強い点などを好ましく感じている。ほか、料理教室などを開催し、子どもや主婦などに教えることも考えているようだ。
「コロナで常識と非常識がひっくり返った」と挑戦を続ける中村氏。中国、韓国などのレストランがすでに多く進出しているモンゴルにおいて、彼らの新店舗が日本の存在感を一際放つ存在となることが期待される。
【茅野 雅弘】
<プロフィール>
中村 龍道(なかむら・りゅうどう)
1969年6月生まれ、鹿児島県出身。地元鹿児島を拠点に飲む温泉水の販売、温泉水を使用した基礎化粧品の販売を展開し、成功をおさめる。2004年に中国大連に渡り、当時としては珍しい日本人向けのナイトクラブを4店舗運営。現地で評判になると同時に、その経営手腕が高く評価され、2006年、マカオ特別行政区で事業を開始する。2010年代に入ると米国ラスベガス市場に参入。ZANN CORPORATIONを買収し、カジノ総合事業を中心としたリゾートプロジェクトやデジタル金融プロジェクト事業を開始。業種の垣根を越え、数々の事業実績を残す。ZANN CORPORATION・Chairmanのほか、人民日報海外版日本月刊・理事、中国陝西省韓城人民政府・顧問、日本深圳経貿文化促進会・副会長などを務める。関連記事
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