適正な精神科医療の構築を目指して 九大病院精神科が担う役割とは(前)
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九州大学大学院医学研究院
精神病態医学 教授
中尾 智博 氏九州大学精神科は1906年4月の開講以来、九州・福岡の地から日本の精神医学の発展に多大な貢献をはたしてきた。2020年4月、8代目教授に就任した中尾智博氏に同科が地域で担う役割について話をうかがった。
地域の難治性疾患治療を担う
──精神科の地域連携における九大病院精神科が担う役割とは何でしょう。
中尾智博氏(以下、中尾) まず知っておいてもらいたいのは、身体科と精神科とでは救急システムが異なるということです。身体科の場合、1次、2次、3次の救急システムが確立しています。1次救急は比較的軽症な患者、2次救急は手術・入院が必要な比較的症状が重い患者、3次救急は救命救急センターなどが対応する重篤な救急患者を担っています。
一方、精神科は身体科と比べ1次、2次、3次の概念が曖昧です。福岡でいうと、福岡県立精神医療センター太宰府病院が中核施設として地域の精神科救急を担っていて、九大精神科は、急性期というよりも一般の精神科病院では難しいクロザピンや修正型電気痙攣療法を用いた難治性疾患の治療を手がけています。近年では、治療抵抗性うつ病への経頭蓋磁気刺激療法にも取り組んでいます。また、自殺企図などによって身体的なダメージを受けた方の多くは、精神的な問題を抱えているケースが多いため、救命救急センターなどで身体的なケアを施した後、精神科病棟に移っていただき、治療にあたります。
──身体的なダメージを受けた患者さんがほかの病院で治療を終えた後、九大病院に移ってくるといったケースもあるのですか。
中尾 そういったケースもあります。たとえば、福岡だと九州医療センターには精神科があるので、救急と精神科の両方のケアが可能です。しかし、ほかの多くの急性期病院には精神科がないか、常勤医がいないことが多く、入院病床がありません。そうした場合、九州大学病院や福岡大学病院、九州医療センターなどで患者さんを引き受けています。
精神疾患に対する根強い差別や偏見
──精神科医療の課題について中尾教授の考えをお聞かせください。
中尾 日本では半世紀にもわたり、特殊な精神科医療が行われており、海外と比較しても精神科病床の比率が非常に高く、かつ平均在院日数が長いことが課題として挙げられます。そして、それを民間病院が担っているのです。また、日本は海外と比べ、公的な精神科病院の比率がすごく小さいのも特徴です。
国は長期入院患者を減らす方向へと舵を切っているのですが、なかなかスムーズにいっていないのが現実です。在院日数を短縮して、速やかに地域へということを目指しているものの、日本では精神疾患に対する根強い差別・偏見があるため、身体疾患に比べると難しい側面があると言わざるを得ません。
民間病院のなかには、法人内でグループホームを運営するなどして速やかな退院を促しているところもありますが、まだまだ数が足りていません。しかし、これまでの入院を中心とした精神科医療から、デイケアや、就労移行支援など障がい者が地域で自立した生活を送る手助けとなるような施設が、ここ10年でたくさんできましたので、こうした施設がもう少し増えることで、精神疾患を抱えた患者さんがより過ごしやすい社会になっていくでしょう。
(つづく)
【新貝 竜也】
<INFORMATION>
九州大学大学院医学研究院精神病態医学
教 授:中尾 智博
所在地:福岡市東区馬出3-1-1
設 立:1906年4月
TEL:092-642-5620
URL:https://npsych-ku.com
<プロフィール>
中尾 智博(なかお・ともひろ)
1995年九州大学医学部卒業。ロンドン大学精神医学研究所客員研究員、九州大学病院精神科神経科講師・診療准教授などを経て、2020年4月から現職。法人名
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