2024年11月23日( 土 )

適正な精神科医療の構築を目指して 九大病院精神科が担う役割とは(中)

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九州大学大学院医学研究院
精神病態医学 教授
中尾 智博 氏

 九州大学精神科は1906年4月の開講以来、九州・福岡の地から日本の精神医学の発展に多大な貢献をはたしてきた。2020年4月、8代目教授に就任した中尾智博氏に同科が地域で担う役割について話をうかがった。

精神科医を育てる中心的役割を担う

 ──病院間の密な連携も必須では?

 中尾 大学病院、総合病院、民間の精神科病院、クリニック、これらが有機的に連携して、それぞれの特徴を生かしながら、患者さんを支えていくことが大変重要です。

 ──ただ、なかなか自発的に有機的なつながりというのは起こりづらいのではないでしょうか。病院経営の面では、なるべく入院させたり、治療したりしていきたいのでは?そうしたなかで、九大病院が担う役割とは何でしょうか。

 中尾 精神科の診断は、身体に比べ難しい点があります。鑑別診断を行い、それを精査し、治療の道筋をつけていくのが、我々が得意とするところです。また、高度医療を提供するのも我々の役割です。

 大学の機関ですので、診療だけではなく、教育にも力を入れなければなりません。若い精神科の医師を指導して、一人前の精神科医に育てていくことはとても重要なことなのです。

九州大学大学院医学研究院 精神病態医学 教授 中尾 智博 氏
九州大学大学院医学研究院
精神病態医学 教授 中尾 智博 氏

    九大が基幹病院となり、連携病院と専門研修プログラムを組み、当教室の医局員が連携病院をローテートしながら精神科医としての修練を積んでもらいます。九大には約60の提携病院があり、九大で半年から1年間研修した後、たとえば九州医療センターに行き、次に太宰府医療センターに行くなど、最低3年間、初期研修と合わせると5年間研修を受け、症例を積み上げて専門医の資格を取得してもらいます。精神科医を育てる中心的な役割を我々が担っているわけです。

 専門研修プログラムは18年度からの新専門医制度によりスタートしました。たとえば福岡県は、全国のなかでも精神科医の数が多い「人気地区」の1つです。福岡には8つの研修プログラムがあり、4つの大学病院(九州大学病院、久留米大学病院、福岡大学病院、産業医科大学病院)および福間病院、のぞえ総合心療病院、雁の巣病院、聖ルチア病院が基幹施設となっています。しかし、新専門医制度にともなって20年度からスタートした「シーリング制度」により、プログラムを受けられる人数の上限が定められています。例年、約20名が上限なのですが、福岡県は毎年50名近くの希望者がいるのが現状です。日本専門医機構の狙いは地域・診療科間の医師の偏在を緩和することですので、我々も福岡県以外の人気がない地方にも医師が行きわたるようにバランスの良い分配を心がけています。

福岡県精神科専門研修プログラム基幹施設一覧

 ──現在、何人ぐらいの九大出身の精神科医が活躍されているのでしょうか。

 中尾 500人超の医師が全国の病院やクリニックでご活躍されており、80歳を超えて現役の方もいらっしゃいます。九州大学精神科の同門会は、会長として「さめじま病院」の鮫島健先生と「朝倉記念病院」の林道彦先生に支えていただいています。

 ──地域包括ケアシステムを構築するにあたって、同門会が担う役割も大きいのでは?

 中尾 もちろんです。それとともに福岡県精神科病院協会(福精協)、福岡県精神神経科診療所協会(福精診)の役割も大きいですね。

 日本の精神科医療全体に目を向けると、学会がはたす役割も重要です。私は日本精神神経学会の理事を務めており、学会内に6つある部門の1つ、「精神保健・医療・福祉部門」の部門長も兼務しています。部門のなかには、精神医療・福祉の在り方に関する常任委員会、急性期治療の在り方検討委員会、慢性療養者の医療・支援の在り方検討委員会など17の委員会があり、それぞれの委員会で国の方針に対する声明などを出しています。

(つづく)

【新貝 竜也】


<INFORMATION>
九州大学大学院医学研究院精神病態医学

教 授:中尾 智博
所在地:福岡市東区馬出3-1-1
設 立:1906年4月
TEL:092-642-5620
URL:https://npsych-ku.com


<プロフィール>
中尾 智博
(なかお・ともひろ)
1995年九州大学医学部卒業。ロンドン大学精神医学研究所客員研究員、九州大学病院精神科神経科講師・診療准教授などを経て、2020年4月から現職。

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