世界の民主主義の危機と多国間主義(1)
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Devnet International 創始者
ジャーナリスト ロベルト・サビオ 氏Net I・B-Newsでは、世界の有識者約14,000名に英語等10言語でニュースを配信する「OTHER NEWS」(本部:イタリア)に掲載されたDEVNET INTERNATIONALのニュースを紹介している。今回はDEVNETの創始者でガリ元国連事務総長の秘書室長を務めたロベルト・サビオ氏から寄稿していただいた記事を掲載する。
DEVNETはECOSOC(国連経済社会理事会)認証カテゴリー1に位置付けられている一般社団法人である。
プロジェクトの目標についての簡単な説明
私たちは、民主主義と国際関係の基礎となる多国間主義が衰退した時代に生きている。この10年間で、権威主義的な政府のもとで暮らす人々の割合は、人類の42%から62%へと増加した。多国間機構の存在意義は薄れ、二国間協定が主流となりつつある。インターネットがつくり出すバーチャルバブルや仮想世界メタバースは、困難な現実から逃避するための避難所となりつつある。人と人との対話は人間関係における中心的な地位を失いつつあり、この現象は各地の社会分析の専門家によって危惧され、また非難もされている。会議と討論の伝統が衰退しつつあるのだ。
以上の状況は寛容と共通の理解という価値観の衰退をも生み出している。政党は選挙に勝つためにマーケティングツールを使い、思想や信条について真剣に議論することから遠ざかっている。政党の主な目的は政権を維持することだけであり、市民参加にコミットすることはますます希薄になっている。そういうわけだから、人々の選挙への参加は減少の一途をたどるのである。
政治家は気候変動や社会問題に対処する代わりに、軍備の増強に精を出す。男女の平等、少数派の尊重といったかつての中心的テーマは多くの選挙プラットフォームから姿を消しているのである。これは憂慮すべきことである。
ナショナリズム、外国人排斥、マイノリティへの不信が増大し、これまでとは異なった社会を形成しつつある。メディアは事件の表層ばかりを取り上げ、その背景分析を述べるスペースが少なくなっている。そういうわけだから、ニュースに対する全体的な理解のかわりに、多くの些細な情報が紙面に氾濫するのである。
このような情報の質の低下の問題は、インターネットの商業利用によってさらに深刻化している。ソーシャルメディアはフェイクニュースの手段となり、アルゴリズムやボットの無制限な利用によって支えられた政治的プロパガンダ、憎悪や陰謀のメッセージの発信者が無秩序に増殖し、マーケティングキャンペーンが継続的に浴びせかけられるようになったのだ。今日、教育に使われる1ドルに対して、広告に使われているのが3ドルであることを考えてほしい。
このような状況はとくに若い世代に影響し、彼らは公的機関に対する懐疑心を強めている。彼らは、政治的な議論から消えつつある「正義」「民主主義」「自由」「平等」というレトリックと彼らが生きる現実との間に具体的な関連性を見出せないでいるのだ。多くの人々が経済的に大きな困難を抱え、不安定で低賃金の仕事に就き、定年後の年金も保証されていないという現実。家を買う余裕もなく、水道などの基本的な商品や、医療、大学、公共交通機関などの基本的なサービスにもお金を払わなければならないのだ。それでも、高齢者には多少の援助がある。一方、若者たちは「自由」という言葉を耳にしても購買力が不十分なままで、消費主義の世界に押し込められているのである。
正義という言葉をいくら耳にしても、子を産み育てることは困難である。「平和」という言葉を耳にしても、彼ら若者たちはウクライナ侵攻以前からつづく多くの紛争による経済的・社会的な悪条件の犠牲者なのである。彼らの多くが貧困や紛争から逃れ、より豊かで安定した国でより良い未来を求めようとするのは、したがって当然のことなのだ。とはいえ、移住すればするで、しばしば地元住民から仕事を奪う侵略者とみなされ、あるいは奇妙な文化や宗教を持ち込む異邦人とみなされるのである。
グレタ・トゥーンベリは、何百万人もの若者の代表として、国連やダボス会議などでさまざまな国家の元首に訴え、大きな拍手で迎えられた。しかし、実際には何も起こらず、彼女の政府への要請は無視された。このことを多くの若者が見ている。だからこそ、今こそ、できるだけ多くの若者を巻き込み、彼らに表現の自由を与え、大きな参加型プロセスの一員であることを実感してもらう必要があると言いたい。
現代の世界にはもう1つ深刻な問題がある。豊かな「北」と貧しい「南」の格差が拡大しているのである。植民地主義と帝国主義の時代が生み出し、しかも今もまだつづくその負の遺産は、ヨーロッパやアメリカからがいくら民主主義を要求しても、その負債を担った国々はこれに対して懐疑心を抱かざるを得ない。
ガンジーはイギリスの自由主義的な民主主義のシステムを信じていたが、そのシステムがイギリス国民には自由と正義を保証し、インド人には冷酷な抑圧しか与えなかったと批判している。彼のこの批判的な分析は、今でも読む価値がある。
アフリカやアジアが独立した後も、旧宗主国と植民地支配を受けた国との不平等な関係が、経済的・政治的な依存関係という形で継続している。豊かな国のコロナ・ワクチンの買い占めや、ウクライナ戦争で生じた食料・輸送・金融などの社会的危機は、彼らには全く責任がないのに彼らを被害者としている。こういう状況で我々がなすべきことは、自分たちが皆、人類の一員であり、同じ地球を共有していることを自覚し、平和で持続可能な生活を保証するために誰もが実行可能なことを実行することである。そして、そのためには世界中の人々と平等に対話をし、自らの見解を表明し合うことなのである。
このように言ったからといって、我々のプロジェクトは政治的な運動や新しい制度をつくることを意図しているわけではない。人々が出会い、議論し、自らアイデアを発信すること、それ自体に大きな価値があると信じ、それを広げようというのだ。これには意識と参加、対話と共有という、これまでほとんど放棄されてきた実践的価値が含まれている。
我々は、参加者が人類とのつながりや帰属意識をもてるよう、世界を振り返る活動に参加しているという自覚をもってこの活動に取り組んでいくつもりである。この運動から、より良い社会のための活動、より多くの社会参加が実現するならば、それは良心、より大きな意識の発達をもたらし、議論と対話と共通理解のための参加型の民主主義として、これまでの民主主義を超えるものとなろう。今はその演習の段階で、これでは確かに世界を変えることはできないが、参加者は始めたときよりも情報を得、力を得ることができるにちがいない。これこそが我々の開発行為の意義であり、それは、より多くの物質を蓄積しようとする新自由主義的グローバリゼーションの価値とは異なり、より多くの情報を得、また世界に関与することを目指すのである。
(つづく)
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