人口減少時代の都市づくり、神宮外苑の再開発を問う(前)
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大都市はさまざまな顔があるから面白い。高層ビルが立ち並ぶ街があり、洗練された緑豊かな公園があり、ささやかな日常が営まれる住宅街がある。しかし、そんな都会が高層ビルばかりになったら、過ごしやすい街といえるだろうか。秋の紅葉の名所である樹齢100年近いイチョウ並木や野球観戦ができる神宮球場があり、東京都民の「憩いの場」となっている明治神宮外苑の再開発の意義が問われている。
明治神宮外苑の再開発
明治神宮外苑の再開発(※1)は、東京都の国立競技場に隣接する緑豊かな都会の森と公共のスポーツ施設のある地区を大規模につくり変える計画だ。敷地面積約28.4haにおよぶ大規模開発であり、同計画の事業主体は三井不動産(株)、宗教法人明治神宮、独立行政法人日本スポーツ振興センター、伊藤忠商事(株)。2022年3月10日に、東京都より「神宮外苑地区 地区計画」の変更に関する都市計画が決定された。23年ごろに解体工事が始まり、24年に新規着工、36年に全体竣工が予定されている。
今回の再開発では、明治神宮野球場、秩父宮ラグビー場、明治神宮第二野球場を解体し、神宮球場とラグビー場を入れ替えて建設する。神宮外苑は緑豊かな景観を守る「風致地区」に指定されており、高さ制限により低い建物が多い場所であるが、高さ約190mと約185mの2棟のオフィス・商業施設、高さ80mの宿泊・スポーツ関連施設を建て、再開発にともない多くの樹木が伐採されることから、高層ビルが立ち並ぶ東京都心で貴重な緑豊かな場所である神宮外苑の景観が損なわれると多くの都民が反対している。また、都民が利用する公共施設の軟式野球場、バッティングドーム、ゴルフ練習場、フットサルコートなどが撤廃されることも問題となっている。
都民の憩いの場である神宮外苑は、国民からの寄付、献木、勤労奉仕により、1926年に創建された。神宮外苑は元国有地であったが、現在の地権者は主に明治神宮であり、秩父宮ラグビー場は日本スポーツ振興センターが所有し、再開発地域の一部を伊藤忠商事(株)などが所有している。
東京五輪で「風致地区」の高さ制限を緩和
自然豊かな景観を守るために高さ制限がある風致地区に、なぜ高層ビルを建てることができるのか。その理由は東京五輪開催時の再開発に遡る。東京五輪の誘致が決定したのは2013年9月であるが、同年6月に「神宮外苑地区 地区計画」なるものが決定された。この決定により、同地区の高さ制限が緩和され、高さ約47mの新国立競技場が建設されたのである。つまり、「神宮外苑地区 地区計画」が決定した13年に、すでに今回の再開発地区の大部分に関しても高さ制限が緩和されていたのだ。
また、新建築家技術者集団 東京支部(以下、「新建東京」)によって、今回の再開発では各スポーツ施設の建替えとビル建設が一体化しているが、これはむしろ容積率を緩和することによる利益を目的としているのではないかと指摘されている。公園・スポーツ施設の敷地から容積率を緩和することで、現在の伊藤忠本社ビルの2倍の高さの高層ビル2棟(地上38階高さ185mと地上40階高さ190m)や高さ80mのビルを建てることができるのだ。神宮外苑の入り口が、非常に圧迫感のある空間になることが懸念される。超高層ビルにすることで、床面積が増えてオフィスや商業施設などの不動産収益が増えると見込まれているようだ。
だが、人口減少時代でリモートワークが促進され、オフィス需要が大きく変化するなか、今の不動産市場の状況がこの先も続くかどうか。
(つづく)
【石井 ゆかり】
※1:「(仮称)神宮外苑地区市街地再開発事業」、(仮称)聖徳記念絵画館前整備事業 ^
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