人口減少時代の都市づくり、神宮外苑の再開発を問う(後)
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大都市はさまざまな顔があるから面白い。高層ビルが立ち並ぶ街があり、洗練された緑豊かな公園があり、ささやかな日常が営まれる住宅街がある。しかし、そんな都会が高層ビルばかりになったら、過ごしやすい街といえるだろうか。秋の紅葉の名所である樹齢100年近いイチョウ並木や野球観戦ができる神宮球場があり、東京都民の「憩いの場」となっている明治神宮外苑の再開発の意義が問われている。
神宮球場の建替えは必要か?
今回の再開発の背景には、「神宮球場やラグビー場は老朽化による建替えが必要」という前提があるのだが、本当に建替えなければならないのだろうか。「新建東京」によると、築100年近い神宮球場は2016年に耐震補強工事を完了しており、グランドや各種施設の整備がなされてきたため、構造上は問題なく、今後も改修して十分利用できる施設だという。今年で築約75年を迎えるラグビー場も耐震補強を行えば、継続的に利用できるという。飲食などのサービス施設を充実させることも改修工事で対応できるということだ。新しい高層建造物を建てることも大事であるが、長い歴史が刻まれた優れた建物を守り、後世に残すことも同じように大切だということに目を向けたい。
持続可能な環境が求められるなか、前述の「新建東京」は「一般的なモデル建築で、ライフサイクルCO2は建設時23%、運用時52%、修繕・更新時22%、廃棄時3%です。事業者は業務ビルの運用時に 20%抑制すると言います。これはライフサイクルCO2の10%削減になりますが、建替え(廃棄+建設)時に発生する26%の方が、よほど大きい値になります」と指摘している。改修よりも建て替える方がCO2排出量は多くなり、環境への負担も増える。まだ使える施設を建て替えることは時代の流れに逆行しているのではないだろうか。
「真夏日」から守ってきた神宮外苑の緑
樹齢100年近いイチョウ並木に関して、小池百合子都知事は「4列の象徴的なイチョウ並木は保全する」としているが、イチョウ並木のある縁石から8mという近い場所に新たな野球場を建てる計画だという。並木に面した建築物の基礎梁を扁平化するなどによって掘削を減らし、イチョウの根への影響を減らすことが計画書に記載されている。
しかし、イチョウは、「生命体」であり100~200年後の成長を保証する計画でなければならない。構造物の建設、地下掘削による樹木の影響については、御苑の森を保全するために建設された新宿御苑トンネルの研究事例がある。中央大学研究開発機構教授・石川幹子氏は、トンネルから15m以内の樹木は植えてから40年間後に30%しか残っていなかったことを明らかにしており、今回の再開発により、イチョウ並木が今の姿を維持できないことが懸念される。またイチョウ並木の西側に大きな野球場が建ち、今の日当たりを確保できなくなることからも、今の姿を維持できなくなる可能性がある。
東京都心の夏はかなり暑い。しかし、約100年前につくられた神宮外苑の豊かな緑により、都心部の気温が郊外に比べて高くなる「ヒートアイランド現象」が緩和されてきた。国交省の資料によると、「東京都心部での実測調査によると、明治神宮や新宿御苑などのまとまった緑地が周辺の市街地に比べて低温であり、その緑地周辺も気温が低いことが確認されています」という。
加えて千葉大の研究(※2)により、木の葉が茂っている部分(樹冠)の厚みが増すと日中の温度を下げる効果があることがわかっている。東京都は再開発にあたり、緑の割合を現在の約25%から約30%に増やすとしているが、多くの木を伐採し、緑化の多くが芝生と屋上緑化となっているため、ヒートアイランド現象を和らげる効果が下がることが懸念される。「地球温暖化」が叫ばれるなか、東京の夏の暑さを和らげる多くの緑を伐採してしまうのは、いかがなものだろうか。
人口減少時代には、都市の空間に詰め込むばかりではなく、都市に集う人々が過ごしやすい空間をつくり、人生の質を高める都市づくりが求められている。
(了)
【石井 ゆかり】
※2:加藤 顕・沖津優麻(2015). 森林の樹冠構造がヒートアイランド現象緩和機能におよぼす影響 日緑工誌、 41(1)、 169-174 ^
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