【ラスト50kmの攻防】佐賀知事、フル規格協議を示唆
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9月23日に開業する西九州新幹線と九州新幹線の接続区間、新鳥栖-武雄温泉は全区間が佐賀県内。国と佐賀県の「幅広い協議」は2月を最後に中断。佐賀県知事選の告示が12月に迫るなか、山口祥義知事は8月、整備新幹線を推進する与党検討委員会の森山裕委員長(衆院鹿児島4区)と面談。佐賀駅経由を前提にしない議論なら、国が望むフル規格協議に応じる姿勢を示唆した。
佐賀県は、国交省との「幅広い協議」で長崎本線を使う低速のFGТ(軌間可変電車)開発を主張。フル規格のルートも、佐賀駅経由以外の長崎自動車と並行する北回りや九州新幹線筑後船小屋駅で分岐する佐賀空港経由の南回りの検討も併せて訴えた。
国交省は低速FGТの開発を拒否。3ルートの建設費や収支改善効果などを示し佐賀駅経由が最適と結論付けた。佐賀県は納得せず、「ボールは国交省に投げており、回答を待っている」(交通政策課)として長い膠着状態が続く。
その一方で山口知事は、佐賀市を主会場に2024年10月に開かれる国民スポーツ大会・全国障害者スポーツ大会に並々ならぬ意欲を燃やし、6月の定例県議会で3選出馬を表明。佐賀新聞が実施した7月の参院選世論調査でフル規格整備への「賛成」が56.2%に上ると、「フル規格の新幹線がダメだと言っている訳ではない。佐賀県の将来に大きな影響が考えられる。調整しながらやっていく」とフル規格協議に含みをもたせた。
ただルートについては、その後も「フル規格ならば、新たな発想で協議したい」と国交省を牽制。8月29日、自民党選対委員長を兼ねる森山委員長と東京・永田町の自民党本部で会談。翌30日、山口氏の後援会が自民党佐賀県連に推薦願を提出すると申し合わせた。推薦願は現在、佐賀県連が受理している。
山口知事が佐賀駅経由以外のルート協議を望む背景の1つに、最大の支援母体、佐賀県農協中央会の考えがあるとされる。同中央会の有力役員は「佐賀空港周辺に物流基地を整備し、国内外に佐賀産の農畜産物を売り込む」として空港経由の新幹線建設を推しているという。
これに対し佐賀県の地方議員約50人でつくる「フル規格促進議員の会」(会長・平原嘉典佐賀市議)は8月、佐賀駅経由を推すと決議。嬉野市や武雄市の商工業者や観光業者らでつくる「フル規格促進佐賀県民会議」(会長・小原健史嬉野市商工会長)の協力も得ながら、開業前日の9月22日を皮切りに佐賀市内で3回の「市民と語る会」を開いて、佐賀駅経由の優位性を訴える。11月には大規模集会を同市内で予定しており、一気にフル規格整備の流れをつくる構えをみせる。
建設促進派の動きを横目に、佐賀県は「フル規格論議をするなら、佐賀県や九州の将来展望にどうつながるのか。まず国交省が考え方を提示するのが先決」(山下宗人地域交流部長)と受け身の姿勢を崩さない。仮にフル規格協議に入ったとしても、ルートに関する双方のミゾは容易に埋まらないとみられる。
そのなかで佐賀駅経由を土台にして、新鳥栖-武雄温泉間に肥前山口駅(新幹線開業後は江北駅)を追加するアイデアも打開策として浮かんでいる。
佐賀駅経由ルートは、国鉄が1985年1月、環境影響評価を実施するため縮尺2500分の1の地図上で公表した九州新幹線長崎ルート。駅を追加すると速達性は劣るが、カーブ半径を短くして距離を1kmほど延ばすと、西九州新幹線開業で「影」になる佐賀県鹿島市方面との結節点になる肥前山口駅の追加が可能だという。
【南里 秀之】
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