2024年07月16日( 火 )

神宮外苑の再開発に多くの都民が反対、見直しを求める

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元駐スイス大使・東海学園大学名誉教授 村田 光平 氏

 都会の豊かな緑と神宮球場などの多くのスポーツ施設があり、国民の寄付や献木、勤労奉仕により約100年前に創建された明治神宮外苑。東京五輪の誘致時から進められてきた神宮外苑を再開発する計画により、多くの樹木が伐採され、これまで維持されてきた緑豊かな景観が大きく変わることが問題になっている。神宮外苑再開発の見直しを求めて運動を行ってきた、元駐スイス大使・東海学園大学名誉教授・村田光平氏に問題の本質と今後の展望を聞いた。

国民の奉仕により築かれた外苑の森

元駐スイス大使・東海学園大学名誉教授 村田 光平 氏
元駐スイス大使・
東海学園大学名誉教授
村田 光平 氏

 明治神宮外苑は、明治天皇のご遺徳を偲ぶため、国民の寄付や献木、勤労奉仕により1926年に創建された。高層ビルが立ち並ぶ都市部で貴重な場所である豊かな森をはじめ、神宮球場や聖徳記念絵画館などの文化スポーツ施設があり、多くの人々に開放されてきた。創建当時は国の施設であったが、第2次世界大戦後は宗教法人明治神宮が主に所有し、管理運営を行っている。今回の神宮外苑の再開発は、神宮球場と秩父宮ラグビー場を入れ替えて建設し、オフィス・商業施設などの高層ビルを建設する計画により、多くの樹木が伐採されて緑豊かな景観が失われるため、多くの都民が反対している。

 元駐スイス大使・東海学園大学名誉教授・村田光平氏氏は、「この問題の本質には、神宮外苑の自然を尊重するよりも経済的利益を追求している姿勢があります。今回の再開発は、神宮外苑の森を努力してつくった私たちの先祖の姿勢に対する真っ向から挑戦といえます。国民の奉仕により築かれた神宮外苑の森を、経済的利益を優先して伐採するのは許されることではないため、最終的にはうまくいくはずがないと考えています」と語る。

 神宮外苑は豊かな緑を維持して景観を守るための高さ制限があるもともと風致地区だ。しかし、2013年9月に東京五輪の誘致が決まり、それに先立つ同年6月に「神宮外苑地区 地区計画」がすでに決定され、神宮外苑地域の高さ制限が緩和された。風致地区であっても、東京五輪を誘致するときに合わせて今回の再開発地区の大部分の高さ制限を緩和することで、多くのスポーツ施設がある神宮外苑の大規模開発を進める「布石」が打たれていた。再開発が早い段階で多くの都民に知れ渡ると反対運動が起こることが見込まれたため、都民からは見えにくいかたちで再開発の計画が進められてきたともいえる。

 「今回の再開発はディベロッパーやゼネコンが進め、東京五輪を誘致した森喜朗元首相などの政治家が乗っかっていると考えています。日本は人としての道を重んじる武士道の国であったはずですが、その心を見失ってしまったのでしょうか。東京五輪の時もそうでしたが、日本国民は主張してしかるべき意見を主張しません。そのことが問題です」(村田氏)。

明治神宮外苑のイチョウ並木
明治神宮外苑のイチョウ並木

開発計画の見直しを求める

 ロッシェル・カップ(Kopp Rochelle)氏と楠本淳子氏が神宮外苑の再開発の見直しを求めて活動しており、楠本氏は署名と開発計画の見直しを求める請願書を小池百合子都知事に提出した。村田氏は小池都知事に回答を求めているが、回答はない。回答が来ることは期待できないが、小池都知事も請願書を無視することはできないだろうと考えているという。

 「神宮外苑の再開発には税金が使われ、小池都知事はその気になれば神宮外苑の再開発を止められる立場にありますが、環境問題に対する感度が高くないため、経済的利益を追求する開発を止める可能性は低いでしょう」(村田氏)。

 村田氏は、人類は経済を優先する父性文明から調和や共生を大切にする母性文明に転換する時期にあると指摘、かつて歴史学者アーノルド・ジョゼフ・トインビーが『人類と母なる大地』のなかで人類は母なる大地を離れて生きていけないと警告したことに触れ、人類は社会の在り方を見直すよう迫られていることを強調する。

国民の行動次第で止められる可能性

 村田氏は、神宮外苑の再開発に関して、「哲学の教えの三原則」である(1)天地の摂理、(2)歴史の法則、(3)老子の天網により今後の見通しを立てている。まず、地球と人類を守る世の働きである「天地の摂理」や、不道徳が台頭することを許さない「歴史の法則」により、元国有地であり国民が真摯な努力をして築いた神宮外苑に対して「挑戦」する不道徳な行いを、市民社会は許さないと見ている。また「老子の天網」により、政治家の行いや東京五輪の闇が次々と明るみに出る。国民を尊重することより一部の事業者の経済的利益を優先したことで、市民により厳しく追及されるだろうと、村田氏は考えている。

 神宮外苑の再開発が東京五輪と深い結びつきがあることが明らかになり、再開発に対する新しい認識が広まってきている。村田氏は、「最終的には、世論の動向が大きな役割をはたすため、国民の行動次第で開発計画を止められると考えています。世の中は変わり始めており、地道に訴え続けることが大切であるため、希望を捨てずに行動してほしいと感じています」と語る。

【石井 ゆかり】


<プロフィール>
村田 光平
(むらた みつへい)
 1938年東京生まれ。61年東京大学法学部を卒業、外務省入省。研修生として2年間フランスに留学。その後、分析課長、中近東第一課長、宮内庁御用掛、在アルジェリア公使、在仏公使、国連局審議官、公正取引委員会官房審議官、在セネガル大使、衆議院渉外部長などを歴任。96年より99年まで駐スイス大使。99年より2011年まで東海学園大学教授。
 現在、公益財団法人日本ナショナルトラスト顧問、日本ビジネスインテリジェンス協会顧問、東海学園大学名誉教授、天津科技大学名誉教授。著書に『新しい文明の提唱―未来の世代へ捧げる―』(文芸社)、『原子力と日本病』(朝日新聞社)、『現代文明を問う』(日本語・中国語冊子)、『新しい文明の提唱―未来を生きる君たちへ』(22世紀アート)など。

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