体験と交流を促進する場へ 映画館が生き残る道(前)
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日本映画業界のトップランナーである東宝(株)。コロナ禍においては、映画興行事業が大ダメージを受け、全体の業績にも大きな影響を与えた。その一方で、比較的堅調に推移したのが不動産事業だった。
たとえば、2021年2月期決算(連結)における不動産賃貸事業は、保有物件の入居テナントに対して賃料の減額措置を講じたほか、歩合家賃の減少など、コロナショックが避けられなかったものの、123億2,900万円の営業利益を確保。同事業だけで、映画事業全体で生み出された営業利益を上回っている。土地、建物をはじめとする資産も潤沢で、有形固定資産額だけでも、同期の売上高に肉薄する規模だ。
これまで映画というコンテンツを通じて得た利を、不動産投資に回していたことが、今になって効果を発揮しているといえる。東宝は「中期経営計画 2025」において、事業成長に向けて今後3年で1,100億円程度の投資額を見込んでいる。このうち、不動産関連投資(保有物件再開発・新規物件取得など)にほぼ半分の500億円を投じる。
不動産事業の存在感が高まり続ける東宝だが、やはり日本映画業界の柱としての働きにも期待したい。とくに、動画配信サービスの利用が当たり前となりつつある今、映画館への付加価値の創出は必要不可欠だ。
大打撃を受けた映画館経営
コロナ禍で密集・密接・密閉の“三密”回避が推奨されるなか、映画業界では新型コロナウイルスの感染拡大防止を目的に、2020年2月ごろから映画公開に合わせたイベントや試写会が次々と中止となった。「ドラえもん」や「007」など、劇場公開が予定されていた人気作品も配給会社が公開延期やネット配信への切り替えを決定した。思うように集客ができず、苦境に立たされた映画館。20年4月に1回目の緊急事態宣言が発出されると、時短営業や営業休止を余儀なくされた。
コロナ禍突入前の19年、日本の映画市場は盛況を極めていた。映画館の入場人員は年間1億9,491万人、興行収入は2,611億8,000万円を記録。興行収入に関しては、発表を開始した2000年以降最高記録となった。しかし、コロナ禍突入後の20年には、入場人員1億613万人、興行収入1,432億8,500万円と、どちらも前年比4割超の減少となった((一社)日本映画製作者連盟発表『全国映画概況』参照)。
映画館経営の行き詰まりは関連企業の業績にも表れている。今回、国内企業で劇場を全国展開している東宝(株)(TOHOシネマズ)、松竹(株)(ピカデリー、MOVIX)、東映(株)(T・ジョイ)、(株)東急レクリエーション(109シネマズ)の4社を取り上げた。以下の通り、各社とも緊急事態宣言にともなう時短営業・営業休止が、映画館経営に重くのしかかっていることがわかる。
映画興行事業のみの業績を見ると、最も減収幅が大きかったのが東宝だ。全国に600スクリーン以上を擁する同社は、緊急事態宣言にともなう営業休止のダメージも大きかった。同事業の売上高は、20年2月期は912億5,800万円だったが、21年2月期には462億4,200万円(▲49.3%)とほぼ半減。歴代興行成績1位を記録した、(株)アニプレックスとの共同配給作品「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」の公開があったものの、その他の注目作品が乏しく、11億円の営業赤字に転落している。
松竹の映画興行を含む映像関連事業の売上高は20年2月期の551億9,800万円から21年2月期には318億2,700万円と4割超の減収となった。自社配給作品「劇場版ヴァイオレット・エヴァーガーデン」が口コミ効果もあり長期興行となったものの、営業休止期間中の損失を補てんするまでには至らず、27億6,100万円の営業赤字に転落している。
東映の興行関連事業は20年3月期の売上高215億4,700万円に対して、21年3月期は116億2,700万円と4割超の減収となった。東宝との共同配給作品「シン・エヴァンゲリオン劇場版:||」の公開もあったが、やはり緊急事態宣言下の営業休止が大きく響き、12億7,100万円の営業赤字を計上した。
4社中、最もスクリーン数の少ない東急レクリエーションは、20年12月期の映画興行を含む映像事業の売上高が前期比4割超の減収となる114億1,500万円にとどまったほか、9億2,500万円の営業赤字を計上している。21年12月期は全国規模での臨時休業を免れた分興行収入が伸び、売上高は116億2,000万円に微増。しかしコロナ対策の継続(座席の間引き販売やサーモカメラの導入など)により、5億7,700万円の営業赤字となった。
各社とも緊急事態宣言以前・以後で、明暗が鮮明に分かれている。そして、この映画館経営の落ち込みは、全体の業績にも相応の影響を与えている(表参照)。
網かけ部分がコロナ禍の影響がとくに強く表れている決算期となる。同期の推移を見ると、東急レクリエーションは緊急事態宣言解除後の営業期間を長く取れた分、映画興行事業の売上高が微増し、ホテル事業の落ち込みをほぼ相殺。全体でも増収となったが、利益面では映画興行事業が足かせとなり、各利益は赤字計上となった。その他の3社は減収減益となっている。
財務面では、松竹は主にコロナ禍での資金安定化対策として100億円を調達、東急レクリエーションは「歌舞伎町一丁目地区開発計画」のために190億円(極度額)をそれぞれ調達する予定だ。両社ともに借入負担が重くなり、自己資本比率が低下した。東映も借入負担は重くなったが、最終利益の確保により利益を積み増したことで、自己資本比率は向上している。4社のなかでは東宝のみが借入の減少と自己資本の強化を両立した。
コロナ禍の映画興行事業において、各社は鬼滅の刃、シン・エヴァンゲリオンのヒットが劇場の稼働に貢献したとしている。両作品とも、配給会社には東宝が名を連ねている。配給会社は、製作会社から作品を上映する権利を買い取り映画館に販売する、いわば卸売のような存在だ。契約内容にもよるが、映画館で購入するチケット代金の半分が配給会社の取り分といわれている。配給会社は作品の上映期間や回数を映画館側と交渉する役割をもつため、TOHOシネマズを全国で60劇場以上展開する東宝は、他社と比べて(松竹・東映20劇場超、東急レクリエーション10劇場超)映画館との連携が取りやすく、長期興行、高頻度の上映(回転率の向上)を実現しやすい。自社配給・共同配給作品数を増やすことで、ヒット作を生み出し、収益のコントロールもしやすい状況をつくり上げている東宝。国内のテレビ局や海外の映画会社と組んでの共同製作作品も増えてきており、製作・配給・興行をワンストップで担える体制強化がコロナ禍を耐え忍ぶ一助となっている。
(つづく)
【代 源太朗】
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