2024年11月23日( 土 )

検証!!日本電産VS東洋経済 インサイダー取引疑惑をめぐる仁義なき闘い(前)

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 経済界のホットな話題は、モーター世界大手の日本電産と経済専門誌東洋経済のバトルである。インサイダー取引疑惑を報じた東洋経済に、日本電産は法的措置をとると発表。両社の間で、「仁義なき闘い」が繰り広げられることになった。一体、何が起きたのか。東洋経済の記事を検証してみよう。

日電産は「法的措置を含めて検討」

インサイダー取引 イメージ    日本電産(株)(京都市)は10月11日、自己株式の取得をめぐる不適切な処理の疑いで指摘した一部報道について「一切事実ではない」とのコメントを発表した。「当該報道機関に対しては法的措置を含めて対応を検討中だ」としている。地元紙の京都新聞電子版が同日、大きく報じた。

 同紙によると、「東洋経済オンライン」が7日、自社株を購入する際の条件変更などに創業者の永守重信会長兼最高経営責任者(CEO)が関与した疑いがあると報じた。株価に影響をおよぼすような内部情報に基づく自社株買いは、インサイダー取引や株価操縦の可能性はあると指摘している。

 (株)東洋経済新報社の広報室は日電産の発表を受け「取材に基づき事実を記した記事だ」とコメントした、と同紙は伝えた。

 11日の東京株式市場で日電産の株価が急落した。終値は前週末比787円(9.3%)安の7,639円。一時は7,584円を付け年初来安値を更新した。

東洋経済が「日電産のインサイダー取引疑惑」を告発

 “文春砲”ならぬ”東経砲”が日本電産を直撃した。

 東洋経済オンライン10月7日、ジャーナリストの大清水友明氏の『日本電産に疑惑、自社株買いに永守会長が関与か 株価至上主義が招いたインサイダー取引の疑い』と題する告発記事を掲載した。

 告発記事によると、日本電産の最大のタブーというべき問題は、自社株買いをめぐる疑惑だという。

 自社株買いとは、株主還元策として市場などで自社の株を購入し、株価を下支えしたり、買い取った株を役員や従業員に付与し士気高揚を図ったりするために行われる。しかし、自社の内部情報に基づいて自社株を購入することには、常にインサイダー取引や株価操縦の危険がつきまとう。

インサイダー疑惑とは信託設定の変更指示

 自社株買いの信託は、原則として信託銀行に裁量を一任する。大清水氏は問題をこう指摘している。引用する。

 日本電産では、経営情報のすべてを握る永守氏自身が、毎月のように(信託設定)の数量、金額、指し値など、自社株買いの条件を事細かに指示していたというのだ。事実上、日本電産の全権を握る永守氏には刻一刻とあらゆる情報が上がり、経営上の重要事項を決定している当の本人でもある。毎月のように信託設定の指示を出せば、インサイダー取引の疑惑が払拭できないことになる。

 さらに、関係者によれば、かつては四半期決算の見通しが固まってから決算発表を行うまでの期間にも、永守氏の指示で頻繁に信託設定の条件を変えていた疑いまであるという。事実だとすれば、インサイダー取引の疑惑は、いっそう深まる。

 株取引のルールに疎い門外漢にはよく分からないが、何が問題なのか。

 「インサイダー取引になるかは、インサイダー情報(重要情報)を知りながら信託設定の変更指示を出しているかがポイントとなる」という専門家の指摘を載せている。

 信託設定である以上、裁量を一任しなければならないが、実際は永守氏の指示でやっていたかどうかが、インサイダー取引疑惑をめぐる裁判の争点になる。

「株価至上主義」を関社長が指弾

 大清水氏は、インサイダー取引疑惑とセットで『日本電産、カリスマ経営者が招いた大量退職危機 異常に高い業績目標がプレッシャーに』を東洋経済オンライン(10月7日付)に寄稿している。

 「株価至上主義が、すべてをおかしくしている」

 9月初旬に日本電産社長を辞任した関潤氏は、在職中、周囲にそう語っていたという。

 関潤社長解任の内幕を報じている。

 永守会長は「元日の午前以外は休まない」と公言していたように、日本電産は創業以来、猛烈なハードワークによって苛烈なノルマを達成してきた会社だ。

 永守会長は大企業出身のエリートを後継者にスカウトしてきたが、所詮は水と油。永守会長のお眼鏡に適うわけがなかった。

 日産自動車(株)のナンバー3(副COO)だった関潤氏を三顧の礼で日本電産に迎え、最高経営責任者(CEO)に据えたのは2021年6月のことだ。1年そこそこで「お役御免」になったことには、さほど驚きはない。

関社長の8時半出社が問題に

 大清水氏は、永守氏と関氏の間に、大きな溝を生むきっかけは「出社時間問題」だったと書いている。そのくだりはこうだ。

 〈関氏の出社時間が問題となった。日本電産では役員らは朝7時には出社するよう求められている。役員たるもの社員より早く出社せよ、が永守氏の理念だからだ。しかも、役員らは朝8時半からは社員と同様に職場の清掃をしなくてはならない。

 だが、関氏は8時半近くになって出社することが多く、永守氏が難詰した。「これでも日産時代よりは早いくらいです」。そう反論する関氏に永守氏は激怒。他の役員の出社時間まで調査する騒動になったという〉

 この逸話には「やっぱり」というのが正直な感想。永守イズムに合う人材が、そうそう見つかるはずがないからだ。

(つづく)

【森村 和男】

(後)

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