2024年11月05日( 火 )

鉄道事業の未来(1)

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運輸評論家 堀内 重人

 2021年10月に発足した岸田内閣は、「新しい資本主義」を掲げた。その重要な柱の1つが、国が主導する「デジタル田園都市国家構想」である。同構想では、デジタル技術を活用して地方を活性化させることで、誰もが何処に住んでいても、豊かな暮らしを営むことができる社会の実現を目指している。

 具体的には、光ファイバのユニバーサルサービス化、高速通信手段である5Gなどの早期展開、データセンターの首都圏以外への地方分散、日本周回の海底ケーブル「デジタル田園都市スーパーハイウェイ」の整備などの施策を推進するという。

 このような構想が打ち出されると、今後の鉄道事業の在り方も大きく変化する。その変化は大きく3つに分かることができる。1つが「デジタル化」、次が「観光立国」、そして「ドローンの活用」である。

「デジタル化」

デジタル都市 イメージ    岸田内閣は、総額5兆円の予算を掛けて「デジタル田園都市国家構想」を推進する考えである。そのなかでも早急に対応が必要な施策は、「デジタル基盤の整備」である。総務省は、地方のニーズに即してスピード感をもって推進するため、インフラ基盤の整備に2兆531億円を投資するとしている。

 携帯電話などのエリア整備事業では、過疎地での利用可能な範囲を広げるとともに、高速大容量で、低遅延、多数同時接続の5Gサービスの普及を目的に、新たな5G用周波数の割り当て、電波法の改正、インフラシェアリングなどの施策を実施するとしている。地方でも隔たりなく5G基地局が整備されるように、過疎地や離島など整備条件の悪い地域の基地局整備を支援することで、誰でもどこでもネットワークへのアクセス強化が図られる。

 データセンターの地方分散化に加え、主に太平洋側を中心に敷設されていた海底ケーブルを、日本海側も含めて日本列島を周回するかたちで、分散を進める計画である。首都圏一極集中進むと、地震などの大規模な災害が発生してシステムが停止した場合に、首都圏だけでなく地方も含めた日本全体で多くのネットワークサービスが利用できなくなる危険がある。そうなると金融や鉄道などの生活インフラにかかわるサービスが麻痺したり、医療機器に影響がおよんで人命に関わったりなど、深刻な事態も想定できる。

 昨今の鉄道は、運行管理などもデジタル化が進んでいる。今後、確実に起こると考えられている東南海沖地震などでは、土木構造物などのインフラだけでなく、情報通信網などが破壊されることで、長期間の不具合が続くことが懸念されている。

 デジタルインフラの強靭化を図ることは、経済安全保障の強化にもつながる。

 事業者がデータセンター、海底ケーブル、インターネット接続点などを東京圏外に移設し、最大7カ所の大規模データセンターの地方分散を2025年度末までに実現するとしている。このような取り組みは危機管理上必要であり、政府はデジタルインフラを整備する際の支援を実施するとしている。

 こうした取り組みにより、総務省は5Gへの接続環境にある人口カバー率を、2023年度末に全国で95%、2030年に99%。また光ファイバの世帯カバー率は、2024年までに99.85%にするとしている。

 「デジタル田園都市国家構想」ではさまざまな新規事業の創出が期待されるが、そのなかでも推進される事業の1つが、サテライトオフィスの整備である。プログラマーなどIT系の職種は、地方都市を離れずに仕事ができるようになる。また今まであまりデジタル化とは縁がなかった農業・介護などの業界でも、ロボットやAIを活用したスマート農業やスマートヘルス事業などが推進され、デジタル技術を活用した雇用が生まれると予想される。

 岸田内閣によって「デジタル田園都市国家構想」が提案される前から、新型コロナウィルス感染症対策でのリモートワークの導入は進んでいる。すでに多くの地方都市および自治体が、デジタル化への対応に追われている。これは別の見方をすれば、鉄道事業者にとれば、通勤・通学客だけが減少するのではなく、出張などのビジネス需要も減少する危険性がある。

 「デジタル田園都市国家構想」は個々の労働者の働き方だけではなく、地方都市でのライフスタイルにも大きな影響を与えると予想される。「スマートシティ」の例で見られえるように、5G通信による遠隔診療や自動走行車の送迎など、先進的なサービスを共通プラットフォームで利用できるようになるかもしれない。自動運転の自動車が実現する時代になれば、「軌道」というクローズなシステム上で運行を行う鉄道のほうが、自動運転が普及しやすく、普及が促進されるようになるだろう。

(つづく)

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