3期目の習政権 日中関係はどうなるか
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国際政治学者 和田 大樹
3期目の習体制がスタートした。2018年3月、習氏は国家主席の任期を2期10年までとする憲法の条文を削除したが、すでにこの時点で3期目は確実視されており、3期目の発足自体は驚くべきことではない。また、新たな指導部の顔触れを拝見しても、基本的に習氏の側近たちで固められ、習カラーがこれまで以上に色濃くなったが、これもほぼ予測されていたことだ。今後はさらに習カラーが色濃くなった行動が内外で繰り広げられることになろう。
では、日中関係、日中経済という視点に絞れば、習体制が3期目となって、どのようなことが懸念されるのか。これに関連する動きとしては、台湾や米国などがあるが、筆者が1つ危惧しているのは、中国国内からの反政権的な動きが強まり、習政権がそれをかわすため対外的に強硬な姿勢に転じるリスクだ。
共産党大会に時を合わせるかのように、北京と上海で反政権的な動きが見られた。共産党大会直前、北京市北西部にある四通橋では、「ロックダウンではなく自由を、嘘ではなく尊厳を、文革ではなく改革を、PCR検査ではなく食糧を」などと赤い文字で書かれた横断幕が掲げられる動画が一時ネット上に拡散した。また、共産党大会直後、上海でも若い女性2人が「不要」などと書かれた横断幕をもって行進したと台湾中央通信社などが伝えた。
さらに、チベット自治区の中心都市ラサでは新型コロナ政策に抗議する数百人レベルの大規模デモが発生し、一部が警官隊と衝突した。抗議デモに参加した多くはチベット族ではなく同地区に出稼ぎにきた漢民族とみられる。習政権はゼロコロナ政策を徹底し、ラサでは3カ月近くもロックダウン状態が続いているという。習政権にはゼロコロナ政策という口実で、チベット自治区に従来からある反政府的な動きを抑えたいという政治的狙いもあろうが、国内各地で実施されるゼロコロナ政策により、国民の社会的、経済的不満が強まっていることは想像に難くない。
3期目の習政権はこの問題に直面する可能性がある。これまでの高い経済成長率を維持できる見込みも少ないなか、3期目はこれまで以上に経済、国内治安維持が大きな課題になろう。そして、反政権的な動きが強まった場合、習政権はそれをかわし、逸らすために対外的に強硬な姿勢に転じ、国民の忠誠心やナショナリズムを高揚させる戦略を強化するだろう。そうなれば、日中関係も影響を受ける可能性がある。
3期目の習政権も、日本に対して基本的には柔と剛の二元論で対応してくることになる。欧米との関係が悪化し、ウクライナ侵攻でいっそう孤立するプーチンとも一定の関係を維持しなければならない中国にとって、日本が経済的に重要なパートナーであることは間違いない。
しかし、今日の米中対立や台湾問題は日中関係の行方に不気味な陰を落としており、それが深刻化すれば日中関係の冷え込みは避けられないだろう。そうなった際、習政権は上述の国内要因と合わせて日本に対して難しい要求を突きつけ、輸出入規制など双方の間で経済摩擦が拡大する恐れもあろう。今後の日中関係において、我々は台湾や米中という国際要因だけでなく、上述の国内要因にも注意を払ってその動向を追っていくべきだろう。
<プロフィール>
和田 大樹(わだ・だいじゅ)
清和大学講師、岐阜女子大学特別研究員のほか、都内コンサルティング会社でアドバイザーを務める。専門分野は国際安全保障論、国際テロリズム論、企業の安全保障、地政学リスクなど。共著に『2021年パワーポリティクスの時代―日本の外交・安全保障をどう動かすか』、『2020年生き残りの戦略―世界はこう動く』、『技術が変える戦争と平和』、『テロ、誘拐、脅迫 海外リスクの実態と対策』など。所属学会に国際安全保障学会、日本防衛学会など。
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