習政権3期目の米中関係の行方
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国際政治学者 和田 大樹
10月の中国共産党大会の冒頭、習氏は1時間45分あまりにわたってこの5年間の政権運営の報告を行ったが、今後の米中関係という枠で捉えると2つの点が注目される。習氏は「2035年までに社会主義現代化をほぼ確実にし、中華人民共和国建国100年となる2049年までに社会主義現在化強国を進めていく」と明らかにした。また、台湾問題にも言及し、「祖国の完全な統一は必ず実現しなければならないし、間違いなく実現できる。平和的な統一を堅持するが武力行使を決して放棄しない」と改めて強調した。
まず、「社会主義現代化強国」だが、これが具体的にどのような“中国“を指すのか、具体的な中身はこれから明らかになってくるだろう。しかし、そこにあるのは米国という存在で、習氏は引き続き安全保障や経済、科学技術やサイバーなどあらゆるドメインで米国と競争し、いつかは米国を追い抜こうと思っていることは間違いない。この社会主義現代化強国は、明らかに米国を対抗相手とする概念である。
そして、今回の習氏による演説で、今後の米中関係でもっと注目してみるべきは台湾問題だ。近年中国は台湾に対して外交面(台湾との断交ドミノ)、経済目(台湾産品目の輸入停止)、軍事面(ペロシ訪台後の軍事演習)などあらゆる側面で圧力を強化し、蔡英文政権がこれまでになく欧米と結束を強化していることに習政権は不満を募らせている。
近年、台湾問題はその質が大きく変化している。これまで台湾問題は、習氏が国内問題だと主張し続けるように、東アジア、極東にある“地域的”な問題だった。しかし、蔡英文氏が民主主義を守ると欧米との結束を強化し、また米中の力の拮抗が進むにつれ、台湾問題は民主主義陣営のプライドをかけた“グローバル”な問題へと変容している。バイデン大統領も台湾をめぐり、「これは民主主義と権威主義の戦いだ」と言及しており、仮に中国による台湾併合を許せば、民主主義国家としてのリーダーとしての米国の国際的立場が失墜することになりかねない。近年は欧州各国の間でも台湾問題が成果文書に盛り込まれるなど、台湾問題は民主主義陣営全体にとっての問題になりつつある。
軍事・安全保障的には、台湾統一によって習氏の社会主義現代化強国が完成するわけではない。台湾統一は始まりであって新たなプロローグでしかない。習氏が目指すのは、台湾統一を1つのステップに、第一列島線上にある台湾を軍事的最前線とすることで、そこから西太平洋での軍事的影響力を拡大することにある。要は、台湾統一は悲願であると同時に、米軍の太平洋プレゼンスに対抗するための最前線なのである。2013年に習氏が訪米した際に、当時のオバマ大統領に対して「太平洋には米国と中国を受け入れる十分な空間」があると指摘したことがある。我々はその言葉を忘れてはならず、それを念頭に台湾問題を考える必要がある。
台湾問題は、米国にとっても譲れない問題になってきている。単に台湾を守るということではなく、民主主義と権威主義の戦い、そして太平洋における自らの軍事的優勢を変える恐れのある極めて重要な問題なのだ。台湾問題は、米中対立のなかで最前線の問題になりつつある。習氏の3期目では、上述のようなことがもっと大きな争点となろう。
<プロフィール>
和田 大樹(わだ・だいじゅ)
清和大学講師、岐阜女子大学特別研究員のほか、都内コンサルティング会社でアドバイザーを務める。専門分野は国際安全保障論、国際テロリズム論、企業の安全保障、地政学リスクなど。共著に『2021年パワーポリティクスの時代―日本の外交・安全保障をどう動かすか』、『2020年生き残りの戦略―世界はこう動く』、『技術が変える戦争と平和』、『テロ、誘拐、脅迫 海外リスクの実態と対策』など。所属学会に国際安全保障学会、日本防衛学会など。
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