「THE RAIL KITCHEN CHIKUGO」の導入経緯と展望(前)
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運輸評論家 堀内 重人
西日本鉄道(西鉄)は、2019年3月23日、筑後地区の観光交流を促進させるため、通勤輸送車両の車内を改造してレストラン電車とした、「THE RAIL KITCHEN CHIKUGO」の運転を開始した。地域を味わう旅列車として、「地産地消」の考えの元、筑後地区や福岡県の食材だけでなく、筑後地方のさまざまな魅力を詰め込んで走る。車内の内装も、八女の竹を使用した竹細工や、城島瓦、家具のまち大川の職人がつくる家具など、沿線地域の伝統技術とクリエイターの感性を掛け合わせ、どこか落ち着く家のような空間を演出している。
筑後地区の雰囲気を醸し出す車内で、食事をしながら旅を楽しむことができる、この観光列車が導入された経緯と今後を展望したい。
導入の経緯
21世紀に入ると各鉄道事業者は、少子高齢化による通勤・通学需要の減少や自家用車の普及による利用者の減少以外に、幹線道路沿いに大型商業施設が林立したことによる中心市街地の空洞化などの問題が顕在化するようになった。そのような状態になれば、鉄道事業者は利用者の減少に直面することになる。それを打開するため、多くの鉄道事業者は、観光列車を導入して交流人口を増やすことで、少しでも利用者の減少に歯止めを掛けようとしている。
だが西鉄は路線長も短く、かつ通勤・通学輸送がメインの鉄道であったこともあり、観光列車の側面から見れば、遅れていたことは否めなかった。ただ観光列車を導入すると言っても、西鉄沿線にはメジャーな観光地が無かった上、近鉄などの他の大手民鉄のように、有料の座席指定の特急を運行した実績も無かった。
その一方で、西鉄沿線に目をやれば、竹細工で有名な「八女」や、家具の街である「大川」、絣で有名な「久留米」など、沿線には豊富な伝統工芸品が多くある。また食材に目を転じれば、福岡県は玄界灘に面しており、新鮮な海産物が豊富である。そして久留米市は、「藤山なし」「巨峰」「柿」「いちご」などの果物の産地でもある。そうなれば車内を、西鉄沿線の伝統工芸品を用いて装飾し、車内で福岡県や西鉄沿線の食材を使用して調理された料理を提供する、レストラン列車が望ましいとなった。
レストラン列車である、「THE RAIL KITCHEN CHIKUGO」(写真1)が導入されるまでの経緯であるが、2017年4月12日に沿線地域の活性化・価値向上を目指し、観光電車を導入する旨を西鉄が発表し、2018年1月25日に列車の名称、デザイン、車両の概要について西鉄が発表した。列車名は、観光列車の特徴を伝えるため、「THE RAIL KITCHEN CHIKUGO」とし、ロゴは、柳川の川下りや久留米の特産品、大牟田の産業遺産など、沿線を代表する豊かな資源や魅力を表現している。
同年4月26日に、西鉄から料理の内容、料理の監修者、運行の概要、ウェブサイトの開設を発表した。このときの料理であるが、列車内の厨房に窯を設け、ここでピザを焼いて、乗客に焼き立てのピザを提供するという内容であった。その後であるが、同年8月31日に筑紫車両基地にて、まだ改造中ではあったが、6050形電車の6053編成を報道陣に公開している。このときは外観だけでなく、車内も大幅に変わることを見てもらいたかったらしく、比較対象として既存の6050形電車の6157編成も報道陣に公開した。そして同年10月18日には、「THE RAIL KITCHEN CHIKUGO」の旅行代金、所要時間などが西鉄から発表された。
2019年2月1日には、念願の「THE RAIL KITCHEN CHIKUGO」で使用する車両が完成したことから、筑紫車両基地にて報道陣に公開した。そして同年2月26日には、クルーの制服、料理を盛り付ける食器について、西鉄が発表を行い、2019年3月23日から営業運転を開始した。西鉄にとっては、初の本格的な観光列車であるため、それを記念して福岡(天神)駅にて、出発式が挙行された。
(つづく)
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