2024年11月23日( 土 )

「THE RAIL KITCHEN CHIKUGO」の導入経緯と展望(中)

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運輸評論家 堀内 重人

 西日本鉄道(西鉄)は、2019年3月23日、筑後地区の観光交流を促進させるため、通勤輸送車両の車内を改造してレストラン電車とした、「THE RAIL KITCHEN CHIKUGO」の運転を開始した。地域を味わう旅列車として、「地産地消」の考えの元、筑後地区や福岡県の食材だけでなく、筑後地方のさまざまな魅力を詰め込んで走る。車内の内装も、八女の竹を使用した竹細工や、城島瓦、家具のまち大川の職人がつくる家具など、沿線地域の伝統技術とクリエイターの感性を掛け合わせ、どこか落ち着く家のような空間を演出している。

 筑後地区の雰囲気を醸し出す車内で、食事をしながら旅を楽しむことができる、この観光列車が導入された経緯と今後を展望したい。

車両の改造

 車両の改造費は、内装・外装などを大幅にリニューアルしたため、約5億円を要している。1両当たり約1億7,000万円となるが、それでも新造よりも安くなった。

 種車は、通勤用の6050形の6053編成であるが、中間電動車の1両を廃車にして、3両編成に組み換えした。中間車がキッチンとなるため(写真2)、厨房機器類や流しを設けるため、水タンクを設置している。

キッチン車内部
写真2:キッチン車内部

 車両の外装は、通勤用の電車を種車として改造した際に大幅に変更されている。「THE RAIL KITCHEN CHIKUGO」は、レストラン列車として専用運用されるため、通勤電車のように、ラッシュ時に増結する必要もない。よって先頭車両は貫通型である必要がなく、非貫通型に変更された。また車両側面の扉も、定員乗車が原則であるから、各車の両側に4カ所も設ける必要がない。他方、テーブル席を増やす必要がある。そこで1号車の両側の第3扉、2号車の両側の第1・4の扉、3号車の両側の第2扉を除き、それ以外の扉を廃止している。2号車に関しては、厨房を配したキッチン車両であるため、食材などの積み込みなどを行うことから、扉が両側に2カ所設けられたが、この車両から乗客の乗降は原則としてない。そこで両引き式である必要がなく、片引き式に変更した。さらに全車の扉を、空調効果を維持してきめ細かなサービスを提供するため、降車時に乗客がボタンを押して降車する半自動式とした。

 車体側面の窓は、1号車は両側の福岡寄りの車端部、2号車は海側のすべて、3号車は両側の大牟田寄りの車端部の部分を廃止しており、妻面(車両の連結面)の窓もすべて廃止している。

 塗色は、「THE RAIL KITCHEN CHIKUGO」がレストラン列車であることから、それを強調するため、キッチンクロスをモチーフとしている。そして美味しさと、清潔感を表現したデザインとし、車体の側面にロゴを配した。

 内装に関しては(写真3)、天井には八女市の伝統工芸の竹編みが採用されている。これらは久留米籃胎漆器(くるめらんたいしっき)の職人が、すべて手作業で編み上げて仕上げたという。そして「皮白竹(かしろだけ)」という、八女市とうきは市の一部にしか生育しない希少な竹も、一部使用している。

 2号車のキッチンのカウンターには、線路に敷いているバラストを砕き、タイルにしたものが使用されている。そしてそのタイルは、一部は床材としても使用されている。

食堂車内装
写真3:食堂車内装

 壁や床など車両の随所で使用している“いぶし銀”の城島瓦は、400年以上の歴史をもち、独特の光沢を放っているが、「THE RAIL KITCHEN CHIKUGO」で採用するにあたり、本列車用に多色の瓦が開発された。この城島瓦は、炭素膜をコントロールしており、3,000枚を超える瓦は、すべて手作業でつくられたと聞く。

 テーブルや椅子には、大川家具が用いられている。1号車と3号車の定員が、それぞれ22名ずつであり、2号車にも予備で8席設けられたため、定員は52名となる。2号車のテーブルや椅子は、予備という扱いであり、平素はクルーの事務を行う際に使用されている。やはり「52名」という定員が、乗客に対してきめ細かいサービスを行う上で、基準となる数値のように感じる。

 「THE RAIL KITCHEN CHIKUGO」は、西鉄で初のトイレ付き車両となることも、車両の改造費を割高にした。トイレ・洗面所は、1号車と3号車の2カ所に設けられている。トイレ・洗面所を設置するとなれば、水回りの工事や、洗面所や便器を洗浄する水を確保するタンクや、排泄物を溜めるタンクを取り付ける必要が生じる。

 それ以外に、鉄道車両の改造費は、「どのような改造を行うか」や、使用する材料で異なる。鋼体を大幅に変更するとなれば、車体の強度計算からやり直す必要が生じるため、改造コストが嵩むが、「THE RAIL KITCHEN CHIKUGO」は扉の廃止や貫通路の廃止程度であるから、車体は大して変更されていない。

 改造費が嵩んだ要因として、通勤電車をレストラン電車に改造するため、2号車などでは水回りの工事や厨房機器や設備の導入、1号車・3号車もトイレ・洗面所の導入などが、大きく影響した。また、筑後地区の名産品など、高級な素材を名工が手作業などで仕上げたことも、改造費が高くなった要因である。それ以外に外部のデザイナーなどを起用したことから、改造費のなかには「デザイン料」「企画料」も含まれる。

(つづく)

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