2024年09月03日( 火 )

通信空間に埋没する個人と、組織管理(マネージメント)(2)

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連絡ツールにおける通信空間の性質~フィードバック欠落

Eメール イメージ    Eメールは、文章や添付ファイルをやりとりする連絡ツールである。その特徴は、メールごとに発信者が宛先、CC、BCCを設定して発信できることにある。これによって発信者はメールごとに自由に連絡関係を設定することができる。

 このような性質は、1つの連絡(メール)に関わる関係者を無限に広げることができるだけでなく、特定の二者間の連絡関係をも複雑にする。どういうことかというと、たとえば、AとBという2人がメールのやり取りをするとしよう。その際、AがBに対してつくることができる連絡関係は1つではない。AはBに対して、1対1でメールを送ることも、CCやBCCに第三者を入れることも、多数を宛先としてそのうちの1人にBを含めることも、他人宛メールのCCやBCCに含めることも可能である。このようにメールは特定の二者(AB)間の連絡関係を複雑にし、その他多くの連絡関係のなかに複雑に織り込んでいく。

 メールによって蓄積される連絡関係は極めて複雑である。

 Eメールとは異なる連絡関係のつくり方をする連絡ツールとして、LINEやMicrosoft TEAMSなどがある。これらは連絡を行う前に、まず連絡関係の確立が行われる。1対1あるいは複数が参加するグループが連絡関係として承認されてから、その固定した関係のなかで連絡(メッセージ)がやりとりされる。Eメールを連絡単位ごとに連絡関係が設定されるので連絡単位優位の連絡ツールとすれば、LINEなどは連絡関係優位の連絡ツールといえる。LINEなどは友達やチームなどの閉じた連絡関係で利用される。

 ビジネスの現場では、LINEなども社内の連絡や固定的な連絡関係がある顧客との間で利用される。しかし、常に環境が変化するビジネスの世界では、開かれた窓口での新しい取引が求められる。よってEメールのような、誰に対しても承認関係なしで自由に連絡関係を形成できる連絡ツールが必要である。一方のLINEなどは、さまざまな連絡関係のなかで固定的な一部の関係を切り分けて特別化する連絡ツールにあたる。

 またほかにもEメールには重要な性質がある。Eメールは、連絡内容を独立した情報として扱うことができる。連絡時の形式を記録として保持したまま、第三者に転送して共有することや、独立したファイルとして管理することもできる。このような記録性や自立性もEメールがビジネスで必要とされる重要な特徴である。

 ところで、EメールをはじめとするITの連絡ツールには大きな問題がある。それは、フィードバックの回収機能が備わっていないことだ。

 コミュニケーションにおけるフィードバックとは何か。現実世界で人間は面談の場合は相手の表情で、または電話では聞き手の声音で、時間を経て変化するさまざまな態度をもフィードバックとして回収し、それをヒントに総合的な判断を下す。人間はコミュニケーションにおいて、言語ばかりで自分の意思を伝えているのではない。意識するとしないとに関わらず、さまざまな方法で、相手に肯定的なニュアンスを伝えたり、反感を示したり、軌道修正を促したりしている。そのフィードバックを受け取る側も、意識するとしないとに関わらず、相手の反応を表現として積極的かつ主観的に回収し、自身の次の行動に結びつける。このようにして人間は存在の全体でコミュニケーションをしている。

 一方、ITではフィードバックを回収する方法として実装された機能によってのみ回収することができる。このようなフィードバックの限定は、ITの全般的な性質であり、ITを現実世界の模倣や延長としてではなく、まったく別の世界として捉えなくてはならない重要な特徴である。

 だが、Eメールのそのような機能の欠落は、通信空間の拡大を抑制するよりは、むしろ通信空間の利点として利用の拡大に大きく寄与したと考えるべきだろう。つまり、フィードバックを回収しないことを前提とした一方通行な連絡が通信空間で多用され、それが許容されてきたということである。フィードバックを伝える手段がない、あるいは極めて限定されたフィードバックしか用意されていないことが、都合よく見なされるのである。

(つづく)

【寺村 朋輝】

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