溶けて溶けてどこへ行くの? 我々には覚悟はあるか~九州建設まで溶けるの、溶けないの(8)
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事業主魂 何故、売らなければならないのか!
「意見沸騰である」と前回の結びで指摘した。ここで、「この決算(九州建設16年5月期決算書参照)内容では売る必要はない……もったいない!俺が長光さんならば事業存続の道を選ぶぞ」と声高らかに宣言するふたりの経営者たちの意見を紹介しよう。両氏は、やはり同じ福岡建設協力会の同志達である。ふたりは共に2代目C、3代目Dを継承している経営者である。共通点はリーマン・ショック後の08年前後に潰れるかどうかの瀬戸際に立たされた経験を有していることだ。
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詳細はあとで触れるとして、やはり経営者、いや広義の意味での人間という存在は、逆境に直面してそこを潜り抜けることで得難い経験をする。その逆境で鍛えられると、大きな器量を持つことになる。経営者に即して表現すれば、強い事業魂が宿るようになるということだ。C、Dの両者はともに危機から生還したから、九州建設の決算書を眺めて自分が当時落ち込んでいたどん底と冷静に比較できる。「俺が立ち往生した時点での経営内容よりも10倍、いや50倍素晴らしい。俺なら簡単に切り抜けて、経営を続けられるよ」という結論に達するのである。
商取引は駆け引きである。九州建設はユニカの物件回収遅延となり、銀行管理となったが、ユニカの経営者はこの時の本音を下記のように披露した。「平成初頭に崩壊したバブル時代の赤字をようやく補填できた矢先に、またリーマン・ショックにやられた。これが50歳前後であれば踏ん張れたが、もう自分は60歳を超えた。また同じ苦しみはしたくなかった」と。彼は調子の良かった時には事業魂に燃えた凄いオーラを発散させていた雄弁家でもあった。その彼にして、先を読んで見切り発車の経営権投げだしの道を選んだのだ。九州建設側はこの経営者の本質=クールさを読み切れなかった。この経営者の選択を批判するつもりはない。九州建設は商取引の駆引きに負けたのである。
2代目Cは苦悶の淵に立たされた
「九州建設さんは人材も豊富、組織づくりにおいても卓越していると評価している。だから今回のM&Aの情報を聞いて驚いた」とCが率直な感想を述べる。現在、リーマン・ショック前後の業績には回復してきた。そのCも、08、09年には夜も眠れない日が続いた。最大の受注先に信用不安が高まっていたからである。「もし、相手さんが潰れたらどうなるか!」と自問自答した。結論はシンプル。「相手さんが潰れたら連鎖するしかないな。どうにかして信用回復をしてくれることを祈るしかない」という他力本願しかなかったのだ。
08年のリーマン・ショック以降、金融機関の貸出締め付けでデベロッパーの倒産が相次いだ有様をみて「連鎖してしまうとしたら、どうすれば良いのか」との苦悶は、ビジネス人生で初めて味わったという。死に直面した気分であった。得意先が自力で危機を乗り切ったことでCの会社は地獄の淵から脱出できた。頑張れた理由は(1)社員達の顔が浮かび、ここは耐えて急場を乗り越えないといけないという使命感(2)オヤジが譲ってくれた会社を潰しては本当に申し訳ない、親不孝者になり下がってしまう、という2点であった。
この危機を克服して社員達との結束の絆が固まった。もし仮に、Cが現時点で「会社を売ります」と公言したら「社長の頭がおかしくなった」と相手にされなくなるだろう、ということだ。まとめると(1)現時点では会社経営の陣頭指揮を執る長光氏は51歳とまだまだ若い(2)2016年5月期の決算内容では再生できたと評価できる。是非とも再度、社長として復活してもらいたかった(3)自分に置き換えると現時点でいかなる災難にも先頭に立って指揮を執る覚悟・闘志はある(4)ただあと10年して後継者が育っていなければM&Aを選択することもある、ということだが。
3代目Dは九州建設を一番信頼していた
Dが受けた衝撃の度合は凄い。Dの見解は「(1)業界で一番、信頼していた(2)人材も豊富、組織も重層的に形成されている。安心してJVできる相手と評価してきた(3)長光氏とは食事を含めて深い付き合いがあった。同氏の経営者としての能力にはお手本にしていた(4)だからM&Aを耳にして「嘘だろう」と奇声を上げてしまった(5)会社の歴史、福岡で置かれている地位から鑑みて売るべきではなかった」となる。
Dの場合はCの会社とは比較にならないほど、間際に迫った倒産と向かい合った経験がある。銀行の保証担保の強要があった際に、親子げんかの見苦しいところを他人様(銀行)に露呈させたこともあった。売上落込みに対しては社員のリストラも強行した。この時ほど、「首切りしてまで組織存続を果たすべきなのか」というジレンマに悩んだことはなかったという。最終的に関係者の支援を仰ぎ、倒産の危機を免れたのはDが逃げ隠れせずに一人で解決に真剣に立ち向かったからである。
Dの最近の顔立ちには非常に気品が漂っている。もがきながら地獄の淵から生還した人のみが醸しだす雰囲気である。「前期ですべての含み損を捻出することができた。ようやく会社の将来を描けるところまで回復できた。若手の人材スカウトまで対策を講じる必要があるし、社員達にもベースアップすることも検討している」と自信に溢れている。「長光さんが真剣に取り組めば九州建設を売ることはなかった」と他人ながら悔やんでいるのだ。
事業魂の見本・大内田昌氏
筆者は、建設業界では逃げ隠れせずに再生の目途をつけた大内田昌氏こそ事業魂の見本だ、と判定する。北九州に本社を置く大内田建設は、年商100億円を突破した矢先の10年7月に自己破産に追い込まれた。昌氏は同社の副社長で経営の先頭を走っていた。原因は工藤会と癒着と見立てられた、県警に仕掛けられた冤罪によって逮捕されたことである。当然、刑事事件としては立証されず不起訴に終わった。
普通ならば大概の当事者はここでへこたれるのだが、昌氏はそうではなかった。「おのれと大内田家、会社の信用と名誉のために会社を再生させる」と誓って東西に奔走した。現在、志水建設を指導しながら年商20億円にまで漕ぎつけているのだ。
(つづく)
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