武田薬品工業、世界製薬メーカーとして生き残れるのか(3)
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財務悪化どうして?
235年の歴史を背負う武田薬品工業に対して昔から付き合っている関係者は「タケダは無借金で財務力抜群の会社である」という認識を持っていた。少なくとも2008年までは膨大な現金を持っていた。ところが現在、武田薬品工業の有利子負債は月商の8.5倍を超えている(1兆2,555億円の借入という驚くべき数字)。
16年、17年両3月期の連結純損益計算書、連結財政状態計算書を参照していこう。一番の問題点は売上対総資本回転率が非常に悪いということである。資産合計が4兆3,557億円に対して売上は1兆7,320億円であるから回転率は0.4回転になる。装置産業であれば回転率が鈍くなるのは理解できる。しかし、製薬メーカーとしてはあまりにも悪い。参考に業界第2位のアステラス製薬の場合は0.72回転である
どうして悪いのか!のれん1兆0,227億円、無形資産1兆0,658億円という異様な勘定科目が横たわっている。2つを合わせると2兆円を超す。優に武田薬品工業の売上を凌ぐのである。総資産が水膨れを起こしているのだ。
こののれん、無形資産がどうして膨張したのか。原因は相次ぐM&Aの繰り返し。08年ミレニアム(アメリカ)を約9,000億円で、11年にはナイコメッド(スイス)を約1兆1,000億円で買収した。今年2月には6年ぶりにがん領域に強みを持つアリアド(アメリカ)を約6,200億円で公開買い付けに成功して完全子会社化した。ミレニアムを買収した当時は、自己資金調達で賄えるほど豊かな武田薬品工業であった。しかし、さすがに財政力があった同社も後半の2案件のM&Aでは膨大な借入をしなければ遂行は不可能であった。財務の悪化はM&Aを強行した結果なのである。
方針食い違いが歴然。対立は見通しの違い
反長谷川会長側は『身も心も外国人化』と叫びながら「財務の悪化を招いた責任をどうとるのか」と迫る。多少、決算書を読める反対派は「もしM&Aが失敗した場合、のれん、無形資産、それぞれ1兆円を超す莫大な金額の一括償却に追い込まれたならばどうするのか!!」と怒りの声をあげる。
筆者は反対者の気持ちには多少同情する。しかし、この方々は良き時代(国内市場で殿様商売していた時代)しか体験していない。「では一体、どういう国際展開策を展開するのですか?」と質問を投げかけても要領を得た返事は期待できないであろう。ただ詰まるだけではないだろうか。少しは武田薬品工業を含む日本の製薬業界の厳しい環境を認識するべきである。
反対者の「国際的な環境の現状の無知ぶり」を見て長谷川会長は、ますます使命感に駆り立てられた。「国際戦争の最中にいないと激烈な結果になることを想像もできないであろう。市場に受けられる新薬が連続して開発できなければ我社の明日もないという事態の想定はできないであろう」と迅速な手を打ってきたのである。
最終的には外国人を社長にまで抜てきした大変革人事を断行した。「アメリカで食うか食われるかの戦いを経験した者しか務まらない。研究者でも同じことである。シリコンバレーならぬボストン・メディシンバレーで競争研究の緊迫した体験がないと将来はない」と確信しているようだ。
玉は打ってある(新薬開発)。すべてが当たるとは限らない。長谷川路線が勝利するのは玉次第。その確率は60%と目して冒頭に「60%の確率で生き残れる」と結論を下したのである。そして、その様子を見るべく、筆者は今年の秋にボストンを視察することに決めた。
(つづく)
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