東芝の闇は貸借対照表にあり(後)
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2つ目が約4,000億円にもなる「繰り延べ税金資産」の資産計上だ。
東芝はリーマン・ショック後の2009年3月期に3,435億円の、10年3月期に197億円の純損失を計上したことによって、繰越欠損金が発生。あくまでも将来に利益が計上されるという見通しが前提だが、繰越欠損金が存在すると、将来うまれてくる利益にかかる課税分をあらかじめ「繰り延べ税金資産」として計上できる。これも、のれん代と同じように第三者に転売できる性格のない資産である。
ただし、繰り延べ税金資産は、資本欠損や債務超過の状態にあるときは計上できない。ちなみに東芝の12年3月期の決算を見ると、繰越欠損金5,679億円に対して利益剰余金は5,919億円しかない。純利益が、あと239億円少なければ、繰越欠損金が利益剰余金を上回る「資本欠損」の状態に陥り、繰り延べ税金資産の計上ができなくなる。ここで繰り延べ税金資産を資産計上できなくなると、債務超過に近づく。
そうした状態を懸念して、利益を底上げするために東芝経営陣は「チャレンジ」の号令をかけたのではないか。3つ目が、退職給付債務の算定基準となる割引率の算定の仕方だ。東芝の割引率は05年3月期~08年3月期まで2%台で推移してきたが、これが前述の3,435億円の巨額赤字を計上した09年3月期には突然3.3%に跳ね上がる。割引率を高く設定すると、その分、負債の部に計上すべき退職給付債務を小さくできる。この年は割引率を高めに設定したことで、退職給付債務を2,000億円以上も過小評価できたと考えられる。
割引率の算定の仕方は、指標となる20年ものの長期国債の利回りだが、国債利回りはこの間2%前後で安定的に推移しており、09年3月期だけ突如金利が急騰したことはない。いかにも不自然だ。巨額赤字に陥って金融機関と結んでいる財務制限条項が発動される危険性を恐れて、負債を過小評価したのではないかと思われる。これらの貸借対照表上の「操作」について東芝の第三者委員会は、「委嘱された事柄ではない」ということを盾にとってメスを入れようとしない。委員長の上田廣一氏は元東京高検検事長の有力検察OB。その気になれば、疑惑だらけの東芝の決算問題について古巣の東京地検特捜部にアドバイスできるだろうが、もちろんやる気はないだろう。
東芝の貸借対照表を洗い出していくと、債務超過に陥る可能性が生じ、経営破綻にまでつながりかねない。経団連など財界首脳や日本郵政など政府機関の首脳を輩出してきた東芝を、安倍政権はつぶすわけにはいかないのだ。(了)
【経済ジャーナリスト・神鳥 巽】関連キーワード
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