日本の製造業の信頼が根底から崩れていく~神戸製鋼の不正は底なし(後)
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神戸製鋼所のデータ改ざんは、底なしの様相だ。アルミ・銅製部材の検査データの改ざんで始まった不正は、主力の鉄鋼製品までおよんでいた。不正が見つかった生産拠点は海外に広がり、問題製品の出荷先は500社に膨らんだ。神鋼の信頼度はゼロに落ちた。より深刻なのは、供給先の自動車、航空機、鉄道、防衛産業の製品を含めて「メイド・イン・ジャパン」の信頼が傷付いたことだ。
大企業は民僚が経営する官僚機構である
多くの製造業は町工場からスタートした。町工場は、ひとつの工場で、生産のみという単一の機能しかもたなかった。大企業になるにつれて、組織は変遷していく。複数の工場や営業所を擁し、生産に携わるだけでなく製品の販売や原料の調達も自ら行う複数事業、複数職能をもつ企業となった。
したがって、企業内部におけるヒト、モノ、カネの流れを統轄し、調整し、監視する組織が必要になる。こうして大企業は専門経営者によって運営されるようになった。専門経営者とは、組織を動かすことができる能力の持主をいう。
ざっくりいえば、大企業は官僚機構へと変質した。経営は、官僚ならぬ「民僚」が担うようになったということだ。
米国のシリコン・バレーに代表されるアップル、グーグル、フェイスブック、アマゾンなどのベンチャービジネスは、個人起業家によって生み出されている。企業成長の初期段階では、個人起業家の活躍の場が大きい。かつて日本でもソニーやホンダなど個人起業家によるベンチャービジネスを多数生み出したが、その面影はない。今日、起業家精神をもつ経営者は、ソフトバンクグループの孫正義氏など数えるほどしかいない。
大企業はおしなべて、民僚が経営する官僚機構となった。官僚化した組織は、いわゆる大企業病にかかり、硬直化して起業家精神を失い、衰退していくコースを辿る。
モノづくりの現場は納期厳守だ
中央省庁の官僚は統制好き、規格化好きである。大企業の民僚も、またしかり。民僚たちは、モノづくりの現場を徹底的に規格化した。作業工程が分秒刻みで決められた。数値目標は厳守しなければならない。
神鋼の生産現場では、納期や歩留まりへのプレッシャーが当たり前になった、と報じられている。検査結果が顧客の要求に満たなければ、作り直しをしなければならない。だが、現場には、その時間的余裕はない。納期に間に合わせるために、データ改ざんや偽装が、組織として引き継がれてきたというわけである。
本田宗一郎氏は、モノづくりの要諦は、「お釈迦になってもいいから、作ること」と喝破した。お釈迦とは、作る過程で失敗し、製品として役に立たないものになるものをいう。今日の日本企業では、お釈迦をつくるのはコスト増を招くので、御法度だ。
今、モノづくりの現場は、納期・歩留まりへの重圧から品質をないがしろにする風潮が進んだ。民僚経営の当然な帰結といえる。本田宗一郎氏の「物を作ったことはない奴は、皆だめだね」という言葉に、深くうなずくしかない。メイド・イン・ジャパンの信頼を取り戻すのは容易ではない。
(了)
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