すらごと~「九州文化オリンピック」
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(株)環境デザイン機構 代表取締役 佐藤 俊郎
「すらごと」――根拠のない、たわけたこと、といった意味の博多弁だと理解している。もうすでに20年以上も前であるが、中年の異業種交流会として「すらごと会」というのがあった。不定期に、食事をし、酒を酌み交わし、大いにすらごとで盛り上がっていた。
1964年の東京オリンピック、当時小学校6年生だった私は、先生に引率されて国道まで聖火のリレーを見に行った記憶がある。丹下健三氏の代々木の体育館に代表されるように、数々の施設を新進気鋭の建築家が手がけ、グラフィックデザイナー亀倉雄策氏のデザインした凛としたマークとみごとなポスターが高揚感を煽り、熱狂的な雰囲気があった。古関裕而氏作曲によるオリンピック行進曲による一糸乱れぬ開会式の入場は、目に焼き付いている。
しかし、2020年のオリンピックはどうだろうか――。国立競技場の問題、エンブレムデザインの問題、今一つ期待感に欠けている。ここで「すらごと」である。
2020年に向けて、「もし、頑張ろう!」とするならば、文化庁が提唱している「文化事業」に力を注いではいかがだろうか。
オリンピックと同時に、全国で「文化」をキーワードにした事業を展開することが公言(HPなどで)されている。京都府や東京都は、すでにさまざまな準備をして手を挙げている。もし、全国で開催するとすれば、京都=日本の伝統文化を世界に紹介するという大義、東北=震災後の復興(?)の姿を世界にアピールするという大義、東京=クールジャパンの中心であり、時代の最先端の文化を紹介するという大義、などがあると思われる。ならば、残された「九州」はどうだろうか。大陸由来のさまざまな文化や技術が渡来し、日本文化の発祥(稲作等)地として、あるいは現在においても東南アジアに開かれた窓口として、手を挙げるに十分な文化的資質がある地域だと思われる。
では、具体的に何を行えばいいか――?
たとえば、国立競技場のように、ゼネコンを潤す箱ものをつくればいいというわけでは決してない。現在、九州各地で行われているさまざまな文化事業やイベントを2019年秋、あるいは2020年春に向けて完成、あるいは一斉に開催し、それを「九州文化○○」と名付け、1つのブランドとして「見える化」すればいいのである。
たとえば、福岡アジア美術館のトリエンナーレや別府の混浴温泉世界(アートイベント)なども、ちょうどこの時期に開催予定が重なると聞いている。この時期、文化のオリンピック(この名称は使えない)を九州各都市や地域で開催し、JRには各都市の美術館をめぐるアート特別列車を出してもらう。あるいは、料理や伝統行事をめぐる特別列車でもかまわない。
とにかく「九州」というくくりで、料理、アート、工芸、デザイン、音楽、それらの「点」を「線」で結べばいいだけではないだろうか。福岡市に関して言えば、保存が叫ばれている九大箱崎キャンパスの歴史的な建造物は、九大T教授が提唱されているように、首都圏機能の代替施設として、この文化オリンピックのとき(いつ来るかわからない震災に備えるきっかけとして)にギャラリーや大規模イベントの場所としてインフラを整備し、大震災に備えればいい。整備の言い訳ができる。
福岡市中央区のセントラルパーク構想は、この時期までにあらかたの整備を終えて、「茶」の文化でつなぐ、東南アジア最大の茶会を開けばいい。あるいは、鴻臚館の新しい博物館ができているかもしれない。中国、韓国(その時に関係は改善されているとして)日本と伝播して来たさまざまな文化について、徹底的な討論の場(まさに文化のオリンピック)ができればいい。考えるだけでも、わくわくしてくる。これからの文化事業は、巨費をかけて無理に主題を捏造するものではなく、あるものの魅力を引き出し「編集」し、いかに美味しく、楽しそうに「見える化」できるかの能力の勝負である。九州には、充分な文化ストックがあり余っている。
もし、この文化オリンピックの可能性が、0.01%でもあれば、私は、寝言のように何度も何度も、唱え続けてみたい。
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