2024年11月22日( 金 )

2023年の経済見通し、リスクシナリオの点検(前)

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 NetIB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。
 今回は12月1日号の「ドル高がもたらす世界成長、ドル帝国循環の始動」を紹介する。

(1)世界のブライトスポット2023年の日本経済

 世界経済の急減速が続いている。IMFは世界経済見通しを2021年6.0%、2022年3.2%の後、2023年は2.7%と見ているが、さらなる下方修正は必至。コロナパンデミック、ウクライナ戦争、米中対立の激化など、経済外のかく乱要素がとてつもなく大きい。サプライチェーンの混乱とエネルギー価格の高騰による40年ぶりのインフレに対応し、各国はこぞっての金融引き締めを実施しているが、2023年はその影響が顕在化するものと見られる。なかでも不動産バブルの崩壊とコロナ対応のロックダウンによる中国の失速が心配される。

顕在化する日本固有の好要因

 しかしそのなかで日本の底堅さが特筆される年となるだろう。2023年の成長見通しをIMFは米国1.0、ユーロ圏0.5%、日本1.6%(10月時点)、OECDは米国0.5%、ユーロ圏0.5%、日本1.8%(11月時点)と予想しており、先進国のなかで日本が一番高くなっている。日本経済は、(1)世界的金融引き締めのなかで唯一緩和基調が維持されていること、(2)パンデミックに対する過剰反応および消費税増税によりコロナ後の経済の落ち込みが主要国中で最も大きかったが、その反動が期待できること(コロナ禍直前の2019年10月の消費税引き上げが1.5%程度の日本の総需要を抑制し続けてきた)、(3)円安のプラス効果が発現することなどが日本経済を支える。

図表1:コロナ後の日米欧実質GDP水準(2019=100)/図表2: IMF世界経済見通し

円安への転換がすべてを変える

 大幅な円安の定着により、日本経済の大きな枠組みが変わった。円高が原因となったデフレの時代が終わり、2023年の日本経済はバブル崩壊後最も明るい数量景気の年となるだろう。Jカーブ効果により円安初期の価格面でのマイナス場面が終わり、数量増の乗数効果が表れる時期に入る。円高で日本から海外に逃げて行った工場や資本、ビジネスチャンス、雇用が、円安によって日本に戻ってくる。円安はまた、インバウンドを増加させ、外国人観光客が日本の津々浦々の地方内需を刺激する。極端に割安になった日本製品を個人や中小企業が購入し、インターネットを通して海外へと販売する越境EC(イーコマース)も急増している。

 このように安いニッポンに向かって、さまざまなチャンネルを通じて世界の需要が集中し、国内景気を活性化するだろう。

図表3:Jカーブ効果/図表4: 企業経常利益率推移

企業経営者の行動変化が長期停滞脱却のLast pushに

 失われた20年の長期停滞は直接的にはすべて企業経営者の判断によって引き起こされた。国内投資の抑制、賃下げ、借金返済と安全経営など、企業生き残りのためには正しかったこれまでの政策が、今大転換を迫られている。企業経営者が迫られている必至の戦略変更とは、(1)工場の海外工場移転か国内回帰へ、(2)賃金抑制から賃上げによる優良労働力確保へ、(3)安全性最優先のデレバレッジからリレバレッジ経営へ、である。行動が変わらない企業は淘汰される。企業経営者の政策転換が、円高デフレの終焉を決定的にするだろう。

(2)リスクシナリオの点検 1:日本の金利急騰と景気失速のリスク小

YCCの2つの終わり方

 日本経済ウォッチャーにおいて共有されている最大の懸念は、世界で唯一長期金利をコントロールしている日銀の超金融緩和政策YCCの帰趨である。YCCの終わり方に勝って終わるか負けて終わるかの二通りがある。勝って終わるとは、日銀が所期の目的であるデフレ脱却と2%インフレの定着を実現した後、YCCを終える道であり、それは株高をともなう望ましい終焉である。負けて終わるとは、デフレ脱却を果せずにYCCを終える道であり、長期金利の急騰、債券暴落、景気悪化と株安が同時に起きるので、景気後退のみならず金融危機を引き起こすかもしれない。それは日本が世界最大のクロスボーダーの貸し手であり、世界金利のアンカーであるゆえに、容易に世界金融危機につながるかもしれない。

図表5:日米英独の10年国債利回り/図表6: 日本国債投資主体別保有比率

 鍵は円暴落があり得るかどうか、にかかっている。ジョージ・ソロス氏のポンド売り投機に襲われた1992年の英国は、為替を取る(=EMS欧州通貨制度加盟維持)か、国内景気優先の金融緩和維持を取るかの二律背反(ジレンマ)状況にあった。今の日本に当時の英国同様の弱みを嗅ぎ取った海外ヘッジファンドが、時折日本売りのチャレンジを試している。そのチャレンジが成功するかどうかは、日本政府・日銀の許容限度を超える円暴落が起きるかどうか次第であろう。

(つづく)

(中)

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