2023年の経済見通し、リスクシナリオの点検(後)
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NetIB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。
今回は12月1日号の「ドル高がもたらす世界成長、ドル帝国循環の始動」を紹介する。長期金利抑制=貯蓄余剰=潜在的デフレリスクの存在
6%のコアCPIの下で3%台に長期金利が抑制されているということは、潜在的な貯蓄余剰=デフレリスクの存在、を示唆する。このことにより、いつでも金融緩和という手段を使える。イエレン財務長官が主張する高圧経済状態を維持するという戦略が生かされるのではないか。比較的タイトな労働需給が続き労働者の強いバーゲニングパワーが維持されることで、企業には労働生産性向上のインセンティブが与えられ、それはサプライサイドも強化する。その場合インフレ率3%へとターゲットをシフトさせる可能性もあり、FRBの市場フレンドリーという傾向は変わることはないだろう。となると2022~2023年はリセッションの年ではなく、長期経済拡大のなかで3~4年ごとに訪れた2013年、2016年のような、ミニディップの年になるかもしれない。利上げ一巡、利下げが視野に入る2023年中には米国株式は騰勢に転ずる可能性が高い。
米国経済司令塔の経済思想の推測
武者リサーチは米当局はオーバーキル回避に軸足をシフトしていくと考える。なぜなら現在の米国の最大のリスクが良いインフレを殺すことであり、高圧経済論者イエレン氏はじめ米国のリーダーはそれを強く意識している、と思われるからである。
米国の根本リスクは企業の好調な利潤が経済成長につながらず、金融市場で滞留して低金利を引き起こしていること。この低金利は短期的にはいいことだが、それが行き過ぎるとデフレ、大不況を引き起こす。それを回避するためには、健全な賃上げ、労働分配率引き上げにより企業の過剰利益を抑制し、他方で賃金上昇により消費が喚起されることが必要である。
このところの米国長期金利の低下によって、図表に示す如く、コロナ後のインフレと金融引き締めにもかかわらず、米国および先進国経済の基本矛盾は、
R1 (利潤率) > G (成長率) > R2 (利子率)
という不等式が変わっていないことがほぼ明らかになった。この基本認識が、「インフレはいいことだ」との認識をもたらしている、と考える。パウエル議長がインフレを一時的(transitory)と評して看過し続けたのは、そうした基礎認識があったからであり、大枠として間違っていない、と考える。
(4)最大リスクは中国、景気失速と台湾リスク
排除できない台湾有事
2023年の最大のリスクは依然地政学であろう。ウクライナ戦争に関しては、ロシアの敗色が濃厚になるか、膠着状態が強まるかであり世界経済への悪影響は限定的であろう。しかし極東においては、中国による台湾有事の可能性が高まっている。
中国経済減速顕著
中国経済は一段と減速、不動産バブルの崩壊は当局の弥縫策をともない、緩慢ではあるが広範化しつつ進行している。日本の過去になぞらえれば、不動産不祥事が顕在化しつつも金融不良債権の実態が見えていなかった1994~5年の様相を呈している。山一証券破綻から始まる金融危機の数年前に相当する。
11月の貿易急減も衝撃的である。前年比で輸出-8.7%、輸入-10.6%という中国貿易の落ち込みは、日本(11月の輸出+20.0%、輸入+30.3%)、米国(10月の輸出+11.7%、輸入13.0%)と好対照であり、変調をうかがわせる。コロナ・ロックダウン下とはいえ11月消費も-5.9%と前年水準を大きく下回っている。
経済不安に直面した専制的支配者は、対外強硬路線で求心力を図ることが多い。経済困難、長期見通しの悪化が見えているので、経済力がピークにある今のうちにアクションを取るべきだとの仮説も成り立つ。
「旧体制と大革命」が示唆する習体制の末路
コロナ・ロックダウンに対する抗議運動の自然発生的勃発と広がりは、監視国家による統治能力の限界を垣間見せた。人々が職にあぶれパンが得られなくなって流民化すれば、強権・監視は威力を失う。パンを求める貧民は、専制政府のセンサーシップ、監視国家を恐れない民衆と化す。中央集権と独裁権限の強化は、ガス抜きや不満の受け皿を壊してしまっているかもしれない。慌てた習政権はロックダウンの緩和へと、抗議運動に譲歩したが、それは(いったんは抑え込まれるにしても)抗議活動に一定の自信を与えるかもしれない。
フランスの歴史・思想家A・トクビルは「旧体制と大革命」において、革命の原因として、(1)旧体制下の中央集権化と不満吸収装置の喪失、(2)ルイ16世の民衆に対する憐憫が逆効果を生んだこと、を指摘していると評されているが、習近平体制もそうした過程に入り込みつつあるかもしれない。
(了)
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