2024年12月22日( 日 )

「はかた号」の現状と展望(後)

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運輸評論家 堀内 重人 氏

 「はかた号」は、バスタ新宿~小倉駅バスセンター(小倉駅前)と西鉄天神高速バスターミナルを経由して博多バスターミナルを結ぶ、西鉄バスが運行する長距離の夜行高速バスである。運行開始は、1990年10月12日からであり、開業当初は京王帝都電鉄(現・京王電鉄バス)との共同運行というかたちで始まった。

 運転開始時は、現在の「ビジネスシート」に相当する座席だけのモノクラスで始まったが、その後はダブルデッカー車が導入され、より上級席である「プレミアムシート」と、値ごろ感を追求した「エコノミーシート」が導入され、より柔軟なクラス設定により、多種多様なニーズへの対応をしていた。現在の車両は、スーパーハイデッカー車が使用され(写真1)、「プレミアムシート」と「ビジネスシート」の2クラス制である。

写真1 スーパーハイデッカー車
写真1
スーパーハイデッカー車

「はかた号」のダイヤ

 下りのダイヤは、バスタ新宿を午後9時00分に出発して、小倉駅前着が午前9時51分、砂津着が午前9時55分、西鉄高速バスターミナル着が午前11時02分、終点の博多バスターミナル着が午前11時17分である。

 一方の上りは、博多バスターミナル発が午後6時40分、西鉄天神高速バスターミナル発が午後7時00分、砂津発が午後8時16分、小倉駅前発が午後8時20分、終点のバスタ新宿には午前9時19分に到着する。

 運行を開始した当初は、西鉄天神高速バスターミナルが起点であり、博多バスターミナルを経由して運行していたが、現在では博多バスターミナルを起点として、西鉄天神高速バスターミナルを経由するダイヤになっている。

 夜行高速バスであるから、「クローズドシステム」が採用されており、下りの乗車はバスタ新宿のみであり、その他のバス停は降車のみである。そして上りは、バスタ新宿以外のバス乗り場は乗車だけしかできない。

「はかた号」の展望

 「はかた号」が運転を開始した当初は、東京~博多間には航空機や新幹線もあったが、当時のライバルは寝台特急列車であった。寝台特急は、門司と下関で機関車の付け替え作業がともなう上、機関車牽引の客車列車であるから、最高速度も110km/hに抑えられる上、加減速性能も悪いことから、東京~博多間の所要時間は、約16時間も要していた。

 西鉄バスの「はかた号」は、運行開始した当初からスーパーハイデッカー車を投入し、車内は1-1-1の独立横3列シートが備わるなど、当時の夜行高速バスが2-2の横4列座席が主流であったなかでは、居住性が高かった。だが寝台車では、完全に横になって寝ることが可能であるだけでなく、浴衣やシーツ、枕や寝台にカーテンも備わるため、プライバシーが確保されるなど、居住性では寝台特急のほうが優れていた。

 その後、寝台特急列車は、車両の老朽化や車内設備の陳腐化などもあり、ダイヤ改正の度に廃止されてしまい、2009年3月のダイヤ改正で「富士・はやぶさ」が廃止されて、完全に消滅してしまった。

 だが今度は、ツアーバスとLCCが競争相手になった。現在は、「ツアーバス」という形態のバス運行は、関越自動車道でバスが壁に激突して死傷者が出る事故が発生したことを契機に、国土交通省が安全性の見直しを行った。それまで、高速バスを運行する事業者は、路線バスとしての許可を国土交通省から受けず、「貸切バス」という形態で2000年代に台頭してきた。ツアーバスは、割安な価格を売りにしていたが、2013年8月1日からは、「新高速乗合バス事業」へ移管したことから、「ツアーバス」という運行形態が廃止されると同時に、400km以上の夜行バスは、運転手を2名以上で乗務することが義務付けられた。

 現在の「はかた号」は、個室風の「プレミアムシート」の人気が高く、筆者が乗車した9月10日の下り便では、「プレミアムシート」は、4室中3室が埋まっていた。筆者はその1カ月前にもインターネットで予約を試みていたが、そのときはすでに4室とも満室であった。「ツアーバス」上がりのオリオン社の路線バスやピーチエアーなどのLCCと「はかた号」は、サービスで差別化されて顧客をしっかり掴んでいると感じた。

 「はかた号」の個室は、車内で仕事をしたり、ゆったりと寛ぎながら、旅行したいという人のニーズを満たしているから、利用者層や用途が異なるといえる。また上りに関しては、バスタ新宿着が9時30分過ぎであることから、ビジネスの需要もあるという。

 筆者が乗車した9月10日は、コロナ禍であったことから、外出を自粛する人も居るため、「はかた号」の定員が「プレミアムシート」「ビジネスシート」と合わせて22名であるのに対し、「プレミアムシート」が3名、「ビジネスシート」が5名と、少々寂しい様子であったが、コロナ禍が落ち着けば、定員の半数以上の需要が期待できると考える。

 西鉄も今後の需要が期待できると考えているからこそ、20年に新車を導入してサービスのグレードアップを図ったのだろう。アフターコロナの需要回復を期待したい。

(了)

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