今年のウクライナ情勢の行方 政治と経済の両面から考える
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国際政治学者 和田 大樹
来月でロシアによるウクライナ侵攻から早くも1年となる。ちょうど1年前、ウクライナ情勢に関して、徐々に欧米諸国間でロシアに対する懸念が強まっていったが、日本国内では多くの著名な専門家たちが侵攻はないと主張してきた。筆者も同様の見方を始めはもっていたが、ロシア軍がウクライナ国境付近にどんどん集まるようになるにつれ、最悪の事態を意識するようになっていった。
この1年を振り返れば、正にプーチンによる自爆戦争だったと表現できよう。ウクライナをロシアの勢力圏と位置づけ、長年NATOの東方拡大に不満を募らせてきたプーチン大統領は、2月24日に侵攻という行動に踏み出した。当初、プーチン大統領は短期間のうちに首都キーウを軍事的に掌握し、ゼレンスキー政権を崩壊させ、親ロシア的な傀儡政権を誕生させることを狙っていた。
しかし、戦闘が1カ月、2カ月と過ぎていくなか、米国など欧米諸国から軍事支援を受けたウクライナ軍が善戦し、次第にロシア軍は劣勢に立たされるようになった。昨年9月、プーチン大統領は予備兵など国民一部の部分的動員に踏み切ったが、それはマンパワーが足りなくなったロシア軍の劣勢を顕著に示すものだろう。
そして、軍事・安全保障面だけでなく、欧米や日本などはロシアへの制裁強化に踏み切り、それにともなってマクドナルドやスターバックスなど世界的企業(日本企業でもトヨタや日産、マツダなど)のロシアからの撤退が相次いだ。中国やインド、その他のグローバルサウス(アジア、アフリカ、ラテンアメリカの新興国などを指す)のなかには引き続きエネルギー分野などでロシアと関係を密にする国々も多いが、2月24日の侵攻という現実は、ロシアに政治と経済の両面から打撃を与える結果になったことは疑いの余地がない。
今年はどのようなことが懸念されるのか。当然ながら、現時点でプーチン大統領はまったく強気の姿勢を崩しておらず、今後再び戦況が激化することが懸念される。最近でも、ベラルーシ国防省は1月10日に、同月16日~2月1日までの日程でベラルーシとロシアの航空部隊が合同軍事演習を行うと発表し、ウクライナを強くけん制した。一方、ウクライナ国防省の幹部は1月6日に、今春あたりにロシア軍への大規模攻撃を計画していると明らかにし、とくに3月に戦闘が最も激しくなるだろうとの見方を示した。こういった最近の軍事的な動きからも紛争の長期化は避けられそうにない。
それにともなって経済的に懸念されるのが、世界的な物価高だ。ウクライナ侵攻は世界的な物価高に拍車を掛けるかたちとなり、ペルーやスリランカなどグローバルサウスの国々では生活必需品の価格が高騰したことで抗議デモが激しくなり、暴動や治安部隊との衝突に発展した。スリランカでは食糧や医薬品、燃料など生活必需品が不足するなどして治安が悪化し、英国外務省は7月になってスリランカへの不要不急の渡航を控えるよう国民に呼び掛けた。
また、チェコでも9月、物価高によって生活が困窮していると強い不満を持つ市民による7万人規模の抗議デモが行われた。市民らは政府が国民よりもウクライナに関心をもっているとして不満をぶちまけ、チェコファースト(チェコ第一)と叫ぶ市民らもみられた。
今後のウクライナ情勢で再び激震が走れば、昨年のような事態が各国で起こりかねない。日本国内でウクライナ問題はどうしても軍事・安全保障の視点から報道されることが多いが、実は経済的側面からの影響のほうが大きいことを意識する必要があるだろう。
(了)
<プロフィール>
和田 大樹(わだ・だいじゅ)
清和大学講師、岐阜女子大学特別研究員のほか、都内コンサルティング会社でアドバイザーを務める。専門分野は国際安全保障論、国際テロリズム論、企業の安全保障、地政学リスクなど。共著に『2021年パワーポリティクスの時代―日本の外交・安全保障をどう動かすか』、『2020年生き残りの戦略―世界はこう動く』、『技術が変える戦争と平和』、『テロ、誘拐、脅迫 海外リスクの実態と対策』など。所属学会に国際安全保障学会、日本防衛学会など。
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