露ウ戦争の第二局面(5)
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日本ビジネスインテリジェンス協会理事長・中川十郎氏から東京大学法学部教授・松里公孝氏の「露ウ戦争の第二局面―ロシア軍事政治指導部内におけるウクライナ全土派とドンバス集中派の対立」が寄稿されたので以下に紹介する。
まとめ
開戦後40日間のウクライナ全土作戦が行き詰ったので、ロシアの軍事政治指導部は、3月29日のイスタンブル和平交渉を好機として、ドンバスに兵力の相当部分を移動させた。ブチャ事件でけちがついたが、そもそも兵力の移動はロシア自体の利益にかなっているので、実行された。そのことがドンバス戦線にどのように影響するかは、間近に迫ったクラマトルスクとスロヴャンスクでの決戦を待って計るしかない。ただ、コフマンに代表される見解は辛きに失するように思う。
西側の軍事専門家に共通する問題は、人民共和国軍を独立したファクターとして扱わないことである。そのため、ドンバスがウクライナの他の地域とどこが違うかという基本的な問題が見えなくなっているし、人民共和国軍とロシア軍の絡み方次第で、この連合軍のモチベーションは上りも下がりもするということを看過している。結果として、戦争地理の理解がのっぺりしてしまう。
第二の問題は、これはコフマンも認めることだが、ウクライナ軍の戦力や状況がわからない。これはおそらくウクライナ指導部にも、ウクライナ指導部を指導しているアメリカ軍部にもわかっていないだろう。2014年以来ウクライナで形成されてきた軍は、正規軍、地域防衛、そして私兵が混交した奇妙な組織であり、中央集権的な参謀組織があるようにも見えない。統計に関心がないらしく、自軍の損害も、敵に与えた打撃もきちんと計っていない。ときどき思いついたように「発表」される数字は常に千単位の概数である。ロシア軍を相手にして、これで戦っていられるのが不思議なほどである。
おそらく、ロシア軍は全兵力をドンバスに集中する必要を感じるほど追い詰められていない。目前に迫るドンバス西部での決戦で負けるようなことがない限り、これからも全土作戦への未練を抱き続けるだろう。しかしその未練と、最近、ロシアの政治家や軍人が頻繁に(個人の資格で)発言するようになった、黒海北岸を完全に征服してロシアから沿ドニエストルまでを回廊でつなぐだとか、ウクライナを内陸国にしてやるだとかいう誇大妄想※12とは、あまり関係がない。クリミアの安全保障ベルトおよび経済的後背地としてヘルソン州を確保する、脱ナチ化という戦争目的を象徴するものとしてオデサで2014年の放火事件の犯人を裁くなど、ウクライナ南部におけるロシアの占領政策には、現実的な目的と効用がともなっているのである。
※12 Замкомандующего войсками ЦВО назвал цели второго этапа военной операции на Украине //Коммерсантъ. 2022.04.22 (https://www.kommersant.ru/doc/5318738); Депутат ГД объяснил、 почему РФ важно взять под защиту южные регионы Украины
Депутат ГД Бабашов: взятие под защиту РФ южных регионов Украины откроет два важных сухопутных коридора // Радио Sputnik. 2022.04.23 (https://radiosputnik.ria.ru/20220423/gosduma-1785053847.html).(了)
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