楽天の未来は楽観視できるのか、それとも落胆あるのみか?(前)
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国際未来科学研究所
代表 浜田 和幸イーロン・マスクを敬愛する三木谷氏
世界を騒がすことに関してはイーロン・マスク氏に勝る経営者はいません。「3大ビジネス」と称される、宇宙ロケット「スペースX」、電気自動車「テスラ」、人間の脳と人工知能を一体化させる「ニューラリンク」と、時代の先端を目指す事業を次々と立ち上げています。
また、そうした事業を拡大、成功させるために、SNSをフルに活用。ファンを獲得し、彼らを顧客に取り込む手法は天才的です。ツイッターのフォロワー数は1億人と、他の追随を許しません。
昨年はツイッターを買収し、世界を驚かせたものです。しかも、「いつまでもツイッターの経営に時間を費やすつもりはない。ツイッターの社長を引き受けてくれるような頭のおかしな人物が見つかれば、即交代したい」とも発言。
「とりあえず、ワンちゃんに任せてみたい」と、お気に入りのワンちゃんこと愛犬をツイッターの社長の机に座らせた写真を公開しています。どこまでが本気なのか、おちゃらけているだけなのか、なかなか本心が読めません。
しかし、今や世界一の大富豪の座を射止めたマスク氏であれば、「火星に移住して新たなコロニーを建設する」といった奇想天外なアイデアを振りまいても、「あの男ならやりかねない」といった前向きな反応を得ることができています。何しろ、バイデン対トランプといった「老老対決」に嫌気し、「2024年のアメリカの大統領選挙にマスク氏を担ごう」といった意見も出てきているほどですから。
そんなマスク氏をこよなく尊敬し、自らも同様の路線を歩もうとしているのが楽天グループの三木谷浩史会長兼社長に他なりません。1965年3月11日生まれですから、もうじき58歳。通称、「ミッキー・ミキタニ」。事あるごとに、マスク氏の常識に捕らわれない発想と行動を賞賛しています。ハーバード大学経営大学院卒で、楽天グループの公用語は英語という、自他共に認める「国際派」です。
日本の政界とも太いパイプを有しており、とくに、故安倍晋三元首相との信頼関係は強固なものがありました。ひょっとすると、アメリカではマスク氏、日本では三木谷氏が政治のトップの座を射止める、そんな近未来があり得るかも知れません。
モットーは「スピードが命」
とはいえ、当面、三木谷氏の率いる楽天グループは順風満帆とは行きそうにありません。というのも、去る2月14日に公表された同グループの2022年の最終損益は何と3,728億円の赤字でした。これは過去最高の赤字額です。米国の格付け会社S&Pグローバル・レーティングなどは楽天グループの長期格付けを1段階引き下げたほど。しかし、不思議なことに、翌日の株価は7.7%も上昇し、その後も続伸を続けています。他の企業ではあり得ない話でしょう。
2月16日の同社の株の出来高は2,582万株を記録し、年間1日当たりの平均売買高の約2.5倍という離れ業を演じたことになります。記録的な赤字が明らかになった翌日、すなわち2月15日の出来高は5,706万株で、2021年3月、同社が日本郵政グループと資本業務提携を発表した時以来の最大の取引となりました。
実に不可解な株の動きです。というのも、楽天グループではクレジットカードや楽天証券などフィンテック部門はすこぶる好調で、売上高も対前年比15%増の1兆9,279億円と過去最大を達成しています。実は、モバイル事業が足を引っ張っているわけです。自社基地局の設置など先行投資による負担が重くのしかかっているのが曲者と思われます。
そうした不足資金を調達するため、同グループでは個人向け債として過去最大となる2,500億円の社債を発行しました。年限2年で、利率は3.3%という、思い切った条件を付与しています。
いずれにせよ、単体で約5,000億円もの赤字を計上している楽天モバイルの先行きが楽天グループの未来を左右すると言っても過言ではありません。三木谷社長曰く「携帯ネットワークを、よりインターネット的にマネジメントしていく」。その方針の下、当初は7年を想定していた基地局の建設を「未曾有のスピードで取り組み、3年で済ませた」とのこと。
三木谷社長のモットーである「スピードが命」を実践した結果といえそうです。「今後の設備投資は大幅に軽減される」というのが三木谷社長の見立てであり、そうした楽観的な近未来展望が投資家からは好感されたのでしょうか。個人投資家に向けて、常に前向きな視点を語りかけるのはイーロン・マスク氏と相通じる戦略に違いありません。実際、そうした三木谷社長の強気の発言によって、大幅赤字という信用リスクが後退したことは明らかです。
(つづく)
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。近著に『イーロン・マスク 次の標的「IoBビジネス」とは何か』、『世界のトップを操る"ディープレディ"たち!』。法人名
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